問題は、このビルを開発した業者がかなり評判の怪しい人物であることから、手抜き工事説が一層、説得力を持って語られるという事情がある。
倒壊した集合住宅が建設されたのは90年代半ばで、建設した会社はすでに倒産しているが、この会社の経営者は、その後、別の会社でマンション開発を続けている。メディアがこの経営者に連絡を取ろうと試みているが、公表されている電話番号はつながらず、経営者の行方は分かっていない。(*追記:この経営者は9日夜、検察によって手抜き工事による業務上過失致死容疑で身柄を拘束された)
この経営者は地元台南出身で、台南をはじめ台湾各地でマンションを建設するなど、一時は「維冠ブランド」のマンション事業を順調に展開していた。しかし、数年前から事業が傾き始め、その後、三度にわたって自分の名前を改名するたびに新たな会社を立ち上げてきているが、新しい会社でも給料の未払いが起きていると、台湾メディアは報じている。
マンションブームに水差す台湾地震
台湾では、この20年、一貫して地価が各地で値上がりを続け、特にマンションの建設ラッシュが主要都市で顕著に起きている。低金利のなかの投資対象として人気を集めたのだが、結果的にあまりに多くのマンションが建てられ、行政の安全検査が追いつかずに耐震設計などがなおざりにされているのではないかという指摘が、建設業界の一部ではささやかれていた。
台湾のマンションは、専門のマンション業者ではなく、建設会社が施工主になり、販売まで行うというケースが多い。日本のように、全国企業のマンション業者が各地で建設会社に発注してマンション開発を行うという事業形態ではない。建設会社が施工主であり、販売まで行うとなると、どうにかして建設コストを下げればその分はそのまま建設会社にぬれ手にアワの利益をもたらすことになるため、不正が起きやすい体質もあるようだ。建設会社を立ち上げるには数百万円の資本金さえあれば可能で、多くのマンション建設のために専用の会社が一朝一夕で立ち上げられ、販売を完了してしまえば会社は解散となる。効率的な方法に思えるが、今回のように手抜き工事の疑惑が生じた場合、責任追及が非常に難しくなるリスクが浮かび上がった形だ。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。