キンドラーの滑稽な慌てぶりの次に、神妙な日本人のビジネスマンたちが登場し、儀式ばった小切手の受け渡しをする。おかしみがさらに増す。
Takaaki Nakajima, general manager for the Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ, along with a half dozen Japanese colleagues arrived, for what they thought was going to be a deal-closing ceremony.
“I didn’t know you were coming,” Kindler said apologetically to the bemused Japanese. “If I did, I would have had John Mack here.”
Nakajima opened an envelope and presented Kindler with a check. There it was: “Pay against this Check to the Order of Morgan Stanley. $9,000,000,000.00.” Kindler held it in his hands, somewhat in disbelief, clutching what had to be the largest amount of money a single individual had ever physically touched. Morgan Stanley, he knew, had just been saved.
Some of the Japanese started snapping pictures, trying their best to capture the eye-popping amount on the check. (p518)
「三菱東京UFJ銀行のナカジマ・タカアキ(中島孝明・米州本部米州企画部長か?)が、6人ほどの同僚たちと一緒に到着した。取引完了のセレモニーがあると思って。
『あなたが来るとは知りませんでした』キンドラーは申し訳なさそうに、呆然としている日本人に言った。『そうと知っていれば、(CEOの)ジョン・マックを来させたのですが』
中島は封筒を開け、キンドラーに小切手を差し出した。そこには『モルガン・スタンレー宛90億ドル』とあった。キンドラーは小切手を両手に持ち、半ば信じられない気持ちで、これまで一個人が実際に手に触れたお金としては史上最高額となるはずのものをしっかりと握った。モルガン・スタンレーが救われたことをよく分かっていた。
同席した何人かの日本人は、小切手に記された目の玉が飛び出るほどの金額をうまく画面におさめようと、写真を撮り始めた」
カネを出してもらって急場をしのぎさえすればそれでいい、と割り切っているモルガン・スタンレー側と、世界を代表する金融機関へ出資できて喜んでいる三菱UFJ側の間に横たわる溝と温度差の大きさを象徴するシーンだ。
そもそも、書きぶりからして、モルガン・スタンレー側からの情報リークによって、筆者はこのシーンを描いていると思われるが、助けてもらった側が唯々諾々とこうした場面の詳細をジャーナリストに話すことからして、三菱UFJ側を軽視している証しだろう。
日本企業に対する根強い不信感
本書によれば、出資交渉は、日本のモルガン・スタンレー証券のジョナサン・キンドレッド社長が、モルガン・スタンレー本体のコルム・ケレハーCFOの携帯に電話をかけてきて、三菱UFJが出資に興味を示していると連絡してきたところから始まる。その場面では、官僚的な日本のビジネスマンに対するアメリカ人の偏見がよく描かれている。