サンダース氏とトランプ氏の間には奇妙な共通点がある。スーパーPACに頼らず独自資金で選挙戦を展開していること、共に「極端な思想主義者」と捉えられていること、支持者の熱狂的支持を受けていること、所属する党の主流とはかけ離れ、それゆえに上層部の支持が得られない、などだ。ただしその方向性は正反対である。
トランプ氏が排他的な発言で米国人の「怒り」を煽っているのに対し、サンダース氏は「未来への希望」を語る。そしてサンダース氏の姿勢は過去50年間ぶれていない。
カナダを羨む米国人
民主社会主義と社会主義の違いに気付かない
サンダース氏はシカゴ大学の学生だった1963年、公民権運動により当局に逮捕されている。当時のシカゴでは黒人と白人の通う学校が区別されており、これに怒った黒人児童およそ20万人が学校をボイコット、という騒ぎに発展した。これに関連した座り込み運動により、逮捕され罰金刑を受けた。この一連の騒動は来年ドキュメンタリー映画として発表される予定だが、そこには若きサンダース氏も写っている。
1960年代に白人が黒人の権利を求めて戦う、というのは大変なことだった。平等を訴える姿勢はその後も一貫して変わらず、その中から民主社会主義、という考えを持つに至った。
米国人の多くがサンダース氏を支持しない理由として「社会主義者だから」というのを挙げる。冷戦を経験した米国人にとって共産主義、社会主義というのは悪そのもの。しかし、民主社会主義と社会主義の違いに気付かない米国人はあまりにも多い。
例えば隣国のカナダは民主社会主義を標榜している。カナダの手厚い社会保障制度を羨む米国人が、社会主義という言葉に過剰反応するのは不思議だ。サンダース氏はバーモント州バーリントン市の市長時代、公立保育所の設置など、信念に従った政策を実施してきた。
日本では保育所の激戦問題が取りざたされるが、制度として比較的安価で子供を預けられる保育園が存在する。しかし米国にはこうした制度がなく、働く母親は高額の私立保育所かベビーシッターを利用する。一部企業は企業内保育所を提供しているが、そうした一流企業に勤められない母親にとって、子供の保育問題は頭痛の種だ。米国では健康保険も保育所も「自助努力」と位置付けられているが、これは世界でも稀な制度と言える。