NATOとEUの協力は誰しも賛成し、少なくとも正面切っては反対出来ないテーマであり、随分以前から、議論され、その予想される成果に期待が表明されて来ました。この記事によれば、今また、このテーマが喫緊の課題として意識され、7月のNATO首脳会議は両者のパートナーシップの新たな時代を画すると期待されているといいます。しかし、そういう劇的なことにはならないのではないでしょうか。NATOとEUが「並行して行動する」ことを脱却して「共に行動する」というようなことに直ちになるとは思われません。
NATOのストルテンベルグ事務総長が両者の協力分野として考えているのは、まず、プロパガンダ、インフラ・金融システムの破壊、サイバー攻撃を含むハイブリッドの脅威です。もう一つは、欧州の南方、即ち難民の流入を含む中東・北アフリカの不安定性の脅威なのでしょう。これらの新たな脅威に対して、軍事組織であるNATOだけでは満足な対応はかなわず、自ずとEUとの協力が求められるということです。
EUにも、ハイブリッドの脅威への備えを整え、強靭性を高める必要があるとの認識は見られます。しかし、EUの事情はさほど簡単ではないように思われます。この分野はEUに権限が移譲された分野ではなく、概ね加盟国の権限にとどまる分野です。従って、EUの行動は加盟国間の合意に基づく協力の形をとります。自ずと、その行動の範囲と性格に制約が生じ、意思決定は緩慢となります。問題は、トルコが係る案件には悉く妨害を試みるキプロスの存在とは次元を異にします。
協力が進むことは歓迎すべき
それでも、EUはNATOとの協力においていくつかの実績を残して来ています。この記事にあるように、ボスニアではデイトン合意成立後、NATO主体の部隊が治安維持に当たって来ましたが、これを2004年にEU部隊が引き継いだ経緯があります。コソボにはNATO主体の治安維持部隊が駐留する一方、EUは警察官、司法専門家などから成る法の支配ミッションを派遣して腐敗や組織犯罪などへの対策を支援しています。アフガニスタンでは、NATOが主導する治安維持支援の部隊が展開する一方、EUはEU警察ミッションを派遣して警察の整備支援を行っています。ソマリア沖の海賊対策では、NATO、EUともに艦艇を派遣しています。
これらは、この記事の言う「並行して行動する」例です。最近では、NATOがエーゲ海に艦艇を派遣して、不法移民の密航取り締まりのための監視と情報提供の面でトルコ、ギリシャの沿岸警備隊と協力していますが、これは新たな脅威への「並行して行動する」対処の例でしょう。有用なことには違いありません。新たな脅威への対応において、両者の合同の「脚本作り」や「演習」に直ちに進むものか、疑わしく思いますが、「並行して行動する」形であれ、協力が進むことは歓迎すべきことと思います。
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