2024年11月22日(金)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2016年11月2日

 亀の顔③は、目が大きくてひょうきんな感じ、一九六〇年代に人気を博した旧大映時代の映画「大怪獣ガメラ」のヒントになったのではないかと、かねがね思っていました。

 富士の下、対岸の江戸の町には武家屋敷④がしっかりと描かれ、その手前の大川には帆をかけた荷船やいかだ(⑤)も描かれています。そしてさらに手前に、流れに棹をさすのは凛とした船頭さん(⑥)、風になびく後れ髪まで見えます。このシーンを映像化するなら、俳優の渡辺謙さんが適役なんて夢想も。

(左)⑤、(右)⑥

 

 小名木川が房総と江戸を結ぶ重要な水路だったことから、江戸初期にはここに船番所が設けられていました。すぐ近くにあった柾木(正木・まさき)稲荷の大木は「柾木の大木」と称され、小名木川への目印になっていたといいます。

 橋の北側には松尾芭蕉の庵があったのですが、広重さんもそれは知っていたことでしょう。この絵が描かれる約150年前に日本橋から深川に引っ越してきた芭蕉さんの庵には、当時珍しかったか、芭蕉、つまりバナナが繁っていたといわれています。今ではその近くが芭蕉庵史跡展望庭園となっており、芭蕉の座像が隅田川の往来を見守っています。

※当時の萬年橋は、現在より10メートルほど下流に架けられていた。(地図・小林修治)

 

【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプ ロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵版画コレクション」について
  米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

  
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◆「ひととき」2016年6月号より

 


 


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