土のうた 「ひととき」より

2016年5月28日

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渦と線

「景」シリーズより

 太古の巻貝の声を聴いた。

 らせんの焼きものに近づくと、淡いもえぎ色が微笑むようだ。土の粒が多いのにデリケート。静謐(せいひつ)な姿なのになつかしい。奥行きと透明感。遠さと近さ。アンビバレントな感情に、いのちの井戸が底からゆらゆらさせられる。

 「この『景(けい)』シリーズは底が1本の線なんです。手びねりで、土を蛇状に積み上げてゆく紐(ひも)づくりです」

 持ちあげてみせてくださる。

 「ほおっ。印象がまったくちがいますね。角度によって見え方がちがう。エッシャーのだまし画みたい。迷宮のよう」

 手前と奥のシンプルな2つの渦が幻視をさそう。厨子(ずし)のなかのみほとけ、雨に濡れて曲がる甃(いしだたみ)の匂い……遠い記憶がほどかれ、忘れかけた光景がよみがえる。動こうとする渦の対比は、いのちの対話だろうか。抑制された抒情が神秘的だ。

 「1本の線から2つの面を立ちあげます」

 「板状の粘土を起こす、たたら技法でもないのですね。かすかなさざ波は指跡ですか。畳み込まれた時間が、記憶をくすぐるのでしょうか」

宍道湖の夕日のような温かい茜色の「景」

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