渦と線
「景」シリーズより
太古の巻貝の声を聴いた。
らせんの焼きものに近づくと、淡いもえぎ色が微笑むようだ。土の粒が多いのにデリケート。静謐(せいひつ)な姿なのになつかしい。奥行きと透明感。遠さと近さ。アンビバレントな感情に、いのちの井戸が底からゆらゆらさせられる。
「この『景(けい)』シリーズは底が1本の線なんです。手びねりで、土を蛇状に積み上げてゆく紐(ひも)づくりです」
持ちあげてみせてくださる。
「ほおっ。印象がまったくちがいますね。角度によって見え方がちがう。エッシャーのだまし画みたい。迷宮のよう」
手前と奥のシンプルな2つの渦が幻視をさそう。厨子(ずし)のなかのみほとけ、雨に濡れて曲がる甃(いしだたみ)の匂い……遠い記憶がほどかれ、忘れかけた光景がよみがえる。動こうとする渦の対比は、いのちの対話だろうか。抑制された抒情が神秘的だ。
「1本の線から2つの面を立ちあげます」
「板状の粘土を起こす、たたら技法でもないのですね。かすかなさざ波は指跡ですか。畳み込まれた時間が、記憶をくすぐるのでしょうか」
宍道湖の夕日のような温かい茜色の「景」