オトナの教養 週末の一冊

2016年6月16日

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中村宏之 (なかむら・ひろゆき)

ジャーナリスト

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスク、調査研究本部主任研究員などを経て2017年4月より読売新聞東京本社メディア局編集部次長。『御社の寿命』、『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』、(いずれも中央公論新社)など

 本書で指摘するように、左遷にもいろいろな形があることがわかる。例えば、セクハラやパワハラ、その他の不祥事などはっきりした理由があるものから、そうでないものまで様々だ。それぞれ明確な区別をするべきである、という主張があるのももっともである。

 社員に様々なキャリアを積ませようと、会社がこれまでのキャリアと異なる分野に配置したところ、左遷と思いこんだ経理マンのエピソードが本書に出てくるが、こうしたケースは個人にも会社にも不幸な構図であるといえる。人事の意図を十分に説明できていなかったのが原因なのだろうが、大企業で膨大な数に上る異動対象者にいちいち説明などしていられないということもまた現実ではあろう。

 「人は自分のことを3割高く評価している」という指摘も興味深い。「人間自分の評価は甘い」ということはよく言われる話ではあるが、人事部や組織が決して左遷でないと思っている正当な人事を、本人は左遷だと受け取ってしまうケースがあることなどは十分理解できる。

左遷を乗り越えて

 本書を読み進めてゆくと、人事をめぐって悲喜こもごも、といったドラマのような部分を超越して、企業が人材をどう使うのかという部分にも鋭い考察を加えていることがわかる。

 〈左遷を生み出す仕組みを企業組織の中で考えてゆくと、やはり終身雇用(長期安定雇用)、年功制賃金が頭にうかぶ。ある程度安定した組織の中の出来事であるからだ〉

 著者がこう指摘するように、左遷は日本の会社や役所の組織に根ざす独特の特徴である。日本の伝統的な組織では、採用、人事運用、評価方法、管理職や役員など上位職の選別などが一気通貫で関わってくるからだ。会社のピラミッド構造の中では、どこかで誰かが押し出されてゆくということを考えれば、社長にならない限り「ほぼ全員が何らかの左遷体験をする」ことになる。

 ただ左遷が全てネガティブでないことも本書は説いている。左遷を乗り越えてチャンスにした人は多くいるし、自分を見つめ直して新たな道を見つけ、人生の充実感を味わっている人もいる。心の持ちようも大切であるというメッセージを読者に送っているのだ。

 ゆえに本書は一瞬、どきりとするようなタイトルとは異なり、読み進めるうちに自分が応援されているような感じにとらわれる。実は自分が自分の生かし方を考えるための一級の「ヒューマン・リソース論」として読める本なのである。

  
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