チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年6月27日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 中国海軍は、海軍司令員であった劉華清が提唱した「3段階の発展」の指示に従って能力構築を進めている。第1段階は、2000年までに、第一列島線(九州から南西諸島、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至るライン)内外まで活動範囲を広げることであった。近海防御の実現でもある。第1段階の目標は、約10年遅れで実現されている。

 第2段階は20年まで、第3段階は50年までとされている。詳細な目標は掲げられていないが、中国海軍の艦艇建造状況をみれば、第2段階の目標は、空母打撃群を世界の海に展開して軍事プレゼンスを示すことであり、第3段階の目標は、米国の海軍力を凌駕(りょうが)することであると理解できる。

 22年(元々は19年だった)というニカラグア運河完成時期と、中国海軍が空母打撃群の世界展開を実現するという目標の20年は符合している。中国は、軍事プレゼンスを用いて、中南米諸国への影響力を行使しようとするだろう。空母建造の状況を見れば、第2段階の実現も約10年の遅延が見込まれる。先ほど触れた通り、ニカラグア運河建設も簡単に進みそうにない。

ニカラグア運河は、同国最大の湖であるニカラグア湖を通ることもあり、環境への影響が危惧されている (AP/AFLO)

東シナ海と南シナ海は「一部」

 中国はまた、ブラジルとペルーを結ぶ南米大陸横断鉄道の建設について、15年5月から、ブラジルとペルーの両国政府と検討を始めている。こちらも巨大プロジェクトである。中国が、それほどまでに、パナマ運河を通らない、太平洋と大西洋を結ぶ輸送ルートにこだわっていることが窺える。

 中国はニカラグア運河を通航する搭載物資に関する情報をすべて得ることにもなる。安全保障上も、ビジネス上も極めて重要な情報である。しかし、中国が太平洋と大西洋を行き来する物資に関する情報をより多く得たいと思えば、ニカラグア運河がパナマ運河よりも商業的に魅力的になる必要がある。

 そもそも、運河にしても鉄道にしても、利益を上げなければ、継続して運用することが難しい。中国は、まず、パナマ運河との競争に勝ち、商業的成功を得なければならないということだ。中国が戦略的な目標を達成するまでに、克服しなければならない課題は多い。

 ニカラグアやパナマは、太平洋と大西洋をつなぐ戦略的な輸送路として、欧米諸国が激しい争奪戦を繰り広げてきた。そして現在、パナマを押さえた米国に対抗して、中国が新たな輸送路を開こうとしている。

 日本では、東シナ海や南シナ海における中国の活動ばかりが注目されるが、中国は、世界の海上輸送の流れを変え、米国の裏庭に自由に軍事力を展開しようとしている。中国の世界規模での活動を注視しなければ、中国が何をしようとしているのかを理解することはできない。

  
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◆Wedge2016年7月号より

 

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