チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年6月27日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 ニカラグア政府は13年に運河の建設を許可したが、プロジェクトは順調に進まなかった。史上最大規模の運河は、当初、14年に着工し、19年度中に完成する予定であった。しかし、15年11月に英国メディアが、「ニカラグア運河の本格工事開始が1年間延期された」と報じた。その翌日には、中国メディアも同様の内容を伝えている。中国自身が認めたということだ。

 英国メディアはプロジェクト遅延の理由は資金不足であると見ている。HKNDは、世界の投資家から資金を募ると説明していたが、実際には、王靖氏の個人資産頼みであるといわれる。その個人資産が、中国株の暴落や経済発展の減速によって、最高時の3分の1程度にまで目減りしてしまったのだ。

 とは言え、個人の資産だけですべてを賄えるはずもなく、中国政府がバックにつき、中国国営企業等が多額の投資をしている。この計画が延期されたために、今度は王靖氏に詐欺の疑いがかけられることになった。王靖氏が計画を延期したインフラ工事は、ニカラグア運河が初めてではなかったのだ。金だけ集めて実際には工事をしないということである。中国政府が、「あくまで民間企業が行っていること」と関与を否定するのは、詐欺疑惑に関係しているからかもしれない。

 また、ニカラグア国内には、運河建設に反対する運動が根強く存在する。農民の土地収用と環境破壊が問題視されており、中国はこうした反対運動に気を遣っている。

ニカラグアでは、運河建設への反対運動が起きている(REUTERS/AFLO)

 13年にニカラグア議会が運河建設・運用に関する政府とHKNDとの合意を批准して以来、新華社は一貫して中国の運河建設によってニカラグア国民が得られる利益を強調している。

 例えば、16年3月に、環境や社会に対する影響のアセスメントに伴う考古学調査の結果、遺跡が発見され、その中から多くの彩色陶器が発掘されたことによって、考古学的大発見につながったと報じている。中国がニカラグアの環境や社会を破壊するというイメージを払拭したいのだ。

 一方で中国は、ニカラグア運河によって中国が得られる戦略的利益については、ほとんど報じていない。中国の本当の目的を達成できるようになるときまで、邪魔をされたくないのだろう。

 資金不足や反対運動等により、遅延を余儀なくされたとはいえ、プロジェクト自体がなくなった訳ではない。今年3月、ニカラグア政府は、運河の本体工事が17年にも始まることを明らかにした。22年までの完成を目指すという。

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