2024年11月22日(金)

対談

2016年6月21日

左藤:久松さんも「自分には腕はない」と書かれていましたが、僕も作家としては専門教育も受けていないし、そんなに上手くはないんですよ。

 ただ、ダメなものを作ったときに「これは売れない」「これはきれいじゃない」とはすぐわかるんです。窯出しして「すごくいいコップだな」としばらく眺めちゃうこともありますが、でも、ダメなものもすぐにわかる。それは作家向きの能力なのかなって思います。焼き物を見て年代や産地を鑑別する目とは別のものです。価値はあってもダサいものを選んでしまう目利きは骨董の世界にもいますよね。そこは知識の問題じゃないんですよね。

久松:築地の仲卸、島津商店の島津修さんと話したときに、彼は「目利きの腕は多くのものからベストを選ぶことではなくて、価格や質のピラミッドから、この部分をこの価格でこの人にと振り分けていくことにある」と言っていました。この能力は、ニッチなところで勝負する人にはすごく大事だと思う。僕ももともとわかっていたわけではなくて、制約のなかで腕を磨いていくなかで同時に理解できてきた。それはラッキーだったとしか言いようがないですね。(つづく)


左藤玲朗(さとう・れいろう)
1964年大分生まれ。立命館大学文学部卒。沖縄「奥原硝子製造所」などで経験を積んだのち、2001年、兵庫・丹波に「左藤吹きガラス工房」を設立。2009年に千葉・九十九里に移転。2015年には文筆家・木村衣有子が左藤に取材し執筆した『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』(亜紀書房)が刊行された。

久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)入社。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。SNSの活用や、栽培管理にクラウドを採り入れる様子は著書『小さくて強い農業をつくる』 (晶文社)に詳しい。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成に力を入れている。他の著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。

  
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