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2016年6月29日

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井上久男 (いのうえ・ひさお)

ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大学卒業後にNEC入社。92年朝日新聞社に転職。主に経済部で自動車や電機産業などを担当。2004年に独立。著書に『メイド イン ジャパン 驕りの代償』(NHK出版)。近著は『自動車会社が消える日』(文春新書)。

 国内で助成1号案件となったのが、16年1月から岡山県美作市上山地区で始まった「中山間地域における生活・経済活性化のための多様なモビリティ導入プロジェクト」。70世帯160人の集落を対象に、最初に交通網維持ありきではなく、地域の活性化のために移動手段をどう位置付けていくかという考えに基づき、19年9月までに計2億2000万円が助成される。

多様なモビリティがある農村のロールモデルを目指す美作市 (MIMASAKACITY)

 このプロジェクトは行政がほとんど関与しておらず、民間有志の人的つながりがSNSなどを通じて拡散し、支援者が全国から集まってきたことに端を発する点も興味深い。同基金事務局長代理の青山伸氏は「この地域の取り組みが日本の農村のロールモデルになれないか」と言う。

 美作市は05年、5町1村が合併したものの、人口は約2万8000人と県内で最も人口が少ない市だ。旧英田町内にある上山地区はかつて8300枚もの棚田が広がっていたが、高齢化とともに耕作放棄地が増えていった。公共交通機関も週に2回、白ナンバーの市営バスの運行があるのみだ。

 一方、06年頃から週末農業を楽しむ人らが都会から移り住むようになって、こうした人たちが地域住民の協力を得ながら、笹で覆われた耕作放棄地を再び耕し、米作りに挑んだり、地域おこしをしたりする動きが起きた。その流れが11年のNPO法人「英田上山棚田団」設立につながった。代表理事の猪野全代さん(62)は言う。「水路の掃除から始まり、最初はわずか3枚の棚田再生から始まったプロジェクトですが、トヨタの助成が決まった時はびっくりしました」。

都会からの移住者が「結の精神」で地域を支える

 ゼネコン勤務を辞め、移住者のリーダー的存在である西口和雄氏(50)は農業や養蜂、酒造りなどで生活している。「私物のセグウェイを地元の80歳を超えたお年寄りに貸したら上手に使っている。とにかく元気な高齢者が多い。ひとり暮らしで移動手段がない高齢者をお互いで支え合う『結の精神』が残った地域」。農作業を手伝ってくれた人には、気持ちとしてお小遣い程度のお金を渡す高齢者も多いという。

 西口氏の講演を東京で聞いたのが岡山NPOセンター副代表理事の石原達也氏で、氏は限界集落などへの支援策を検討するNPO法人「みんなの集落研究所」代表執行役も務め、トヨタ財団ともつながりもあったため、上山地区の取り組みがトヨタ・モビリティ基金の目に留まることになった。基金が助成するのは、同研究所と「英田上山棚田団」の2NPO法人だ。

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