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2016年6月29日

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井上久男 (いのうえ・ひさお)

ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大学卒業後にNEC入社。92年朝日新聞社に転職。主に経済部で自動車や電機産業などを担当。2004年に独立。著書に『メイド イン ジャパン 驕りの代償』(NHK出版)。近著は『自動車会社が消える日』(文春新書)。

 筆者は4地区の1つ、旧出石町の小野地区を訪れた。運営主体は「チクタクひぼこ運営協議会」で、同地区内の4区長や運転手らで構成、11年から運行が始まった。「チクタク」は生活インフラとして活用され、集落と金融機関、病院、スーパー、農協、役所、温泉施設などの間を運行している。乗車専用の停留所は集落に近いところに点在させ、帰りは自宅近くまで送り届け、「毛細血管」としての機能を強めたことも「イナカー」にはなかった点だ。

 取りまとめ役である同協議会代表の加藤幸洋氏(66)は言う。「『チクタク』自体が走るコミュニティーと化し、乗り合った人同士で情報交換をしたり、移動手段がないために途絶えていた付き合いが復活したりしている」。

 ただ、苦労する点は運転手の確保と指導だ。3カ月先までスケジュールを組み、予備要員まで確保しなければならない。引き受けた運転手は自分が担当する日は午前7時45分~午後5時まで拘束され、日当は3000円。1日の走行距離が100キロを超えることもある。プロドライバーでない人に、安全運転やマナー、時間厳守などを指導することには少し気苦労も伴う。

 加藤氏はボランティアで代表を務めているが、元県職員だけに地域社会への貢献意識も高く、「これからの時代、行政の負担にも限界がある。地域で対応できることは地域で対応する時代が来ている」とも言う。

 この加藤氏を支えるのが実務を担う本田一恵さん(67)だ。地元で小さなスーパーを経営しながら簡易郵便局長も務めている。「チクタク」乗車には予約が必要なため、専用電話で予約をさばくほか、運転手の健康チェックなども本田さんが担当する。「乗客の平均年齢は80歳程度」という。

 市によると、「チクタク」は行き先を細かく設定するなどドアツードアに近いサービスをしたことで、「イナカー」に比べて利用者が5倍に増えた地区もあり、税金投入による市負担額もほぼ半減。市都市整備課交通政策係の大岸勝也係長は「高齢者の外出機会が増加して人と人のつながりができることで、心身の健康の維持・向上といった福祉的な効果もある」と話す。

 トヨタ自動車は社会貢献活動の一環として、こうした地域の移動手段確保のプロジェクトに助成金を出し始めた。担当するのは、14年に設立されたトヨタ・モビリティ基金(豊田章男理事長)だ。トヨタ株3000万株を信託運用することで運営経費を年間30億~45億円計上、「より多くの人の、より多くの場所への移動を実現」をモットーにNPOや研究機関などと連携しながら助成をしている(編集部注:都市部の交通問題も対象である)。

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