山師の手帳~“いちびり”が日本を救う~

2016年6月27日

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チャーチルが泣いている

 EU の歴史を紐解くと、これまでの英国の政権担当者たちはEUとの権限バランスの中で多大なる努力を重ねてきた。第2次世界大戦終了後の1946年にウィンストン・チャーチル卿がヨーロッパ合衆国構想を唱えたことが反響を呼び欧州評議会が設立されたことがEU設立の黎明期である。欧州各国が知恵を出し合って地政学的にも戦争にならない、組織を構築した歴史に対して2012年、ノーベル平和賞をEUに与える事を決定した。この平和賞は国際紛争の原因となる資源を共有しようというシューマン仏外相(EUの父)やEUの思想的基盤を提唱したクーデンホーフ伯爵(幼名は青山栄次郎)など平和の実現を提唱した多くの先人の努力に報いるものであった。

 現在に至るまでのEUの努力の歴史は人類が誇るべきものだと思うが、これらの枠組みを崩壊させるのは実に簡単である。英国人は理想主義者ではない。その英国の国民が多大なる努力の結実であるEUの歴史を「英国のEU離脱」が目先の利害だけで踏みにじってしまったように思われる。これからの長い歴史の中で最も馬鹿げたポピュリズム(大衆迎合主義)の典型例として歴史に刻まれる愚挙とも云える。まさにウィンストン・チャーチル卿があの世で泣いているのではなかろうか。

 おまけにアメリカでもアホな大統領候補がポピュリズムを煽っているから今後の世界は何が起こるか分からなくなっている。仮にトランプ氏が大統領になって彼のこれまでの言葉に言行不一致がなければ、「世界の混乱の時代がやってくる」と予見せざるを得ない。トランプ氏は内政干渉しない方針だから英国のEU離脱は全欧に飛び火する可能性は否定できない。EU の歴史は当初6ヵ国から始まって加盟国が27ヵ国まで増えたが今後は形骸化していく混乱の歴史を予感せざるを得ない。

英国で生活をしていた日本人の見方は?

 英国で日系家電メーカーの工場長を長年務めた高校の同窓生とEU離脱について意見交換をする機会があった。彼の奥さんによると開口一番(奥さんもイギリスの田舎に8年も居たので)「イギリス人ってああいう人たちよ」といったと聞いた。英国滞在年数の長い彼の意見をまとめると以下の通りである。

 ① テロの脅威と難民の流入に対する不平と不満が増えていること。② 昔から英国人はドイツやフランス嫌いでプライドが高いこと。③ 英国の経済人、エリートと労働者、貧しい人達の間が断絶していて意識の度合いが大きく離れてきていること。④ 恐らく大政党や国会議員はほとんどが離脱反対だから国民投票でなければEU離脱にはなっていない。⑤これは下層階級の一種の反乱である。しかも目先の利害で安易に投票してしまったのである。⑥ 英国のEUのメリットはないのではなく、一般大衆は何も感じていないはずで、これも政治家の怠慢だと判断するしかない。

 繰返しになるが労働者達は、経済のメカニズムがわかっていなくて単純にイスラム、移民嫌い大陸嫌い。そして一部の大英帝国主義者の煽りにあい、深い考えもなく選んでしまったと思われる。本来は偏見の少ない英国人もイスラム嫌いが増えているのも仕方ない。恐ろしいのは世界中に伝染し蔓延することである。今回の英国のEU離脱から始まる世界の混乱を注視していきたい。

  
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