ネジの水指は、わび茶のお点前に格好のたたずまい
佐藤さんの縦横無尽な焼きものを取り合せ、茶会をしたらさぞ楽しかろう。青釉の茶碗には「ネジの水指(みずさし)」がいい。銹(さ)びた鉄そっくりの肌合いで、お腹がへこんでいるというのに、ふっくらとしたやさしさがある。産業革命以来の物質文明への批評が、茶味にするりと身を躱(かわ)す面白さ。共蓋(ともぶた)のネジをつまんで蓋を取ると、蓋と身の吸いつきのよさに驚かされる。
佐藤さんによれば「茶盌は作るものではなく、選ぶもの」。名物の井戸や粉引が、もとは朝鮮の雑器だったことを思うと名言だ。青釉金彩茶盌の新しみは、作意を捨てた真剣な遊びから生まれた
佐藤さんは幼年時代から美術と音楽を両手に振り分けてきたのではない。全身が土のうた、ビウエラの調べである。その焼きものは悠揚迫らぬなかに澄んだ造形感覚が通う。時をかけていつくしむほどに、奥の方からいい音色をひびかせる。
一切の団体に所属しなかった。人間の感情の襞(ひだ)をモーツァルトやシューマンの音楽のなかに読み取った3つ子のたましいは、世俗を超えた世界で遊ぶことを運命づけられた。ミュージックやミュージアムの語源である古代ギリシャの詩歌女神(ムウサ)は、詩と音楽と真実を自由にうたう。ムウサと遊ぶ佐藤さんの作品のそばにいると、生きることが楽しくなる。
(写真・石塚定人)
●佐藤和彦 陶展
<開催日>2016年11月23日~28日
<問>ギャラリーおかりや ☎03(3535)5321
<URL>http://www.g-okariya.co.jp
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。