否むしろ、個人消費の伸びという点では、中国よりインドのほうが健全な成長が期待できるという見方もできる。というのも、中国とインドではGDPの構成が大きく異なるのだ。インドのGDPの内訳を見ると、日本やアメリカといった先進国と同様、個人消費が6割を占めている。一方の中国で、個人消費のGDP比は4割に過ぎない。
成長が喧伝される中国のGDPの半分以上は一党独裁の政府とそれに連なる企業による強引なまでの公共事業や設備投資が支えているというのが実情だ。こうした中で、一般の中国人は、国家体制への不信が根強く、所得の半分を貯蓄に回すのが通例といわれている。つまり、経済成長によって国民の所得が増えた分がきちんと消費に回るサイクルは、インドのほうができているといえるのだ。
加えて、戦略資源云々の問題はといえば、たしかに中国は石油や天然ガスのほか、今後需要増が確実なレアメタルの産出国でもあるが、それとて膨大な自国の需要を賄うことさえかなわない。世界中でなりふり構わぬ資源収奪外交を展開し、日本の領海内の海底に眠る天然ガスまで狙う有様だ。日本に「提供する」余剰資源など到底あるはずがない。
以上、無茶苦茶な論理を振り回して日印接近を腐す報道の真意は、日本への歪んだ「愛」の表現だといえる。インドからもラブコールを送られる日本はいわばモテモテ状態。しかし、そのように伝える日本のマスメディアは皆無である。
インド洋に連なる真珠の首飾りの恐怖
厄介な隣国を持つという点でインドは日本の御同輩だが、目下インドが感じている厄介さの度合いは日本のそれをはるかに上回る。
3400kmもの長い国境線を中国と有し、半世紀近く前、その全線で軍事衝突した(1962年中印国境紛争)後、今日まで停戦状態にあるインドは、中国の軍拡に関連して非常に深刻な状況に立たされているのだ。
「インド洋に連なる真珠の首飾り」という言葉をご存じだろうか?
それは、西はアラビア海に面したパキスタンの港から、東は海南島まで、中国が「投資」と称して他国領内に築いた軍事拠点の連なりを指す言葉だ。
もう少し具体的にいうと、パキスタンの南西端、イランに隣接したグォダールという、鄙びた漁村の港は、中国の青写真と数十億ドルもの出資によって近代的な軍港に生まれ変わっている。2009年、スリランカは二十年来の民族紛争に突如終止符を打ったが、この「トドメ指し」には中国からの爆撃用戦闘機供与が欠かせなかった。そして紛争終結の見返りに、中国政府はスリランカ南端の港湾整備を請け負った。
先進国が経済制裁を課すうち、中国の独壇場となったミャンマー領内には当然のごとく、いくつもの事実上の中国の拠点が存在する。さらにバングラデシュ、ネパール等でも、道路や鉄道整備を含め、「インフラ整備支援」と銘打った中国の拠点整備が着々と進められている。
これらの拠点やインフラは、一丁事あればたちまち人民解放軍の拠点と化す、「隠れ人民解放軍拠点」だ。そのすべてを地図にマークしてみると、それはまったくインド洋ごとインドを取り巻く首飾りのように見えるのだ。同時に「首」にあたるインドは、飾られているというより、徐々に首を締められているようにも見える。さらに地図を眺めていると、中東へと連なる原油補給路であるインド洋が、日本にとってもまさしく生命線たるシーレーンにあたることを再認識させられる。