2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2016年7月28日

 最近も難民や移民を乗せてアフリカから欧州に向かう船が地中海で転覆し、多くの人が命を落としたニュースは世界に衝撃を与えたが、なぜ命の危険を冒してまで多くの人が欧州を目指すのか。

 本書に印象的な記述がある。

 〈南部アフリカの人間はヨーロッパの豊かさを知っている。衛星放送で世界のニュースに触れ、インターネットが世界の人々をつないでいる。例えば、アフリカでは今、どんな小さな村でも、英国のサッカー・プレミアリーグの試合を観ている。~中略~。電気の届いていない村でさえ、衛星放送受信用のパラボアアンテナはあるんだ。そして、バッテリーで衛星テレビを観る。そのテレビを観ていると、多国籍企業のCMを通して、先進国の生活に触れることができる。その意味では、アフリカ人にとって欧州はすぐそこにある。そして、その欧州はいつも明るく輝いているんだ〉

 このニュースは、無謀にも飛行機の車輪格納庫に身を潜めてアフリカからの密航を企図し、ロンドンで若い命を落としたアフリカ人青年の悲劇、と淡々と扱ってしまうこともできたはずだ。しかし著者はそうはしなかった。南北格差のみならず、アフリカ内部にもある格差や腐敗など社会の矛盾にも鋭敏に着目し、息長い取材で一つの大きなストーリーに仕上げた。青年の死は、世界にあまたある密航者の死の一つだったかもしれない。しかし、本書があぶり出した問題は大きく、国際社会はいまだ効果的な解を見いだせていない。報道に携わる者の一人として、多くを学び、刺激を受けた一冊である。

  
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