2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2016年7月29日

二つのシステムを擬人化

 著者は、コロンビア大学で心理学の博士号を取得した、モスクワ生まれ、ニューヨーク在住のジャーナリストである。

 「私がまだ幼かったころ、寝る前の私たちに父がシャーロック・ホームズ物語を読み聞かせてくれたものだ。弟はソファの隅っこで隙あらば眠り込んでしまうことが多かったが、ほかの子供たちは一心に耳を傾けた」。そう序文にあるように、本書には、著者のホームズ愛がどのページにもあふれている。

 すなわち、ホームズ物語で育ったジャーナリストが、実験心理学における最近の知見を一般向けに解説したのが、本書である。

 最近の心理学に詳しい向きには、聞いたことのある話ばかりだが、それらをホームズ物語とうまく結びつけたことで、ホームズファンと心理学初心者、両方の興味を引くことに成功した。

 本書のユニークな点は、私たちの思考のベースとなっている二つのシステムに、<ワトスン・システム><ホームズ・システム>と、名前をつけたことだろう。

 ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』にもあるとおり、心理学では広く使われている「システム1」「システム2」という名称がある。

 <・「システム1」は自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかである。また、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。

 ・「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。>

 要するに、すばやく反応し、直観的、反射的で、意識的な思考や努力を必要としないオートパイロットのような役目のシステム1を、本書ではワトスンになぞらえた。かたや、反応に時間を要し、より慎重に、より徹底して、論理にかなった動きをするシステム2を、ホームズとして擬人化した。


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