2024年11月23日(土)

Wedge REPORT

2009年12月20日

 もともと奈良は、政党や団体の支援を受けない山下市長の当選が大きな衝撃を与えたほど、多選の目立つ保守王国だった。それは、サイレントマジョリティーが市政に参画してこなかった結果でもある。生駒に限らず、ごく少数の関係者の利害で市政が運営される危険性はなかなか排除できない。分権時代ならなおさら、実質的な多数の住民の意見を反映することの難しさをよく認識しておく必要がある。

 以上のような地方の実態を見ると、地方は分権を受け止められるのかとの懸念が拭えない。「地方に力がないからこそ、たとえ失敗してでも、まずはやらせるべき」と反論する向きがあるが、国家戦略が先に立たないまま地方に権限を付与すると弊害が生じる。

 例えば農地。食糧安全保障の観点では、自給率の向上より、優良農地の確保のほうが重要だ。国は農地法や農振法、さらには都市計画法で農地の転用を規制している。4ヘクタール超の農地転用は、農林水産大臣の許可が必要だが、それ以下の転用は、都道府県知事、地域によっては市町村長や農業委員会に権限移譲されており、年間の転用面積や件数の99%以上が地方マターである。

 しかし、法律のザル運用がまかり通っている。農林水産省の調査では、2007年に知事が許可した転用のうち、実に12%が法解釈に疑義ありとされた。また、市町村は農用地区域を定め、多額の税金を投入して農地を整備しているが、法律で定められた転用禁止期間8年を待たずに、例外規定を使って転用を許した市町村が217もあった。さらに、「農業振興の目的」であれば自ら定めた農用地区域から除外できる法律を濫用し、住宅や店舗、工場などに転用させた市町村も141に上る。合法的に優良農地が失われている。

 国は09年に農地法を改正し、違反転用への罰則を強化したが、「チェック機関の農業委員会が転売利益を期待する農家で構成されている以上、その実効性は期待できない。それどころか、法改正で農業委員会の裁量権を拡大し、国も地方分権に託(かこつ)けて責任を押し付けている」と明治学院大学の神門善久教授は指摘する。不適切な農地利用に加担する者に権限を移譲すると、優良農地は一層失われていく。

国際競争力が
確保できない港湾

 「港湾整備は国策として進めるべきなのに、日本の港湾は諸外国に比べて国際標準に必要な水深や広さなどで比べると10年遅れだ」。ある港湾業界関係者はこう言って肩を落とす。

 コンテナ物流が世界の海上輸送の主流となった昨今、アジア主要港でのコンテナ取扱貨物量は急増している。08年の速報値では、シンガポール・中国・韓国の港が世界のベスト5を独占。一方、日本でトップの東京港は24位。それゆえ、日本の荷主の中には東京や神戸港を使うのではなく、釜山港(第5位)で荷物を積み替え、欧米との間で輸出入している。「港湾とは国家の基幹施設であると同時に基本戦略そのものだ」と国際港湾政策研究所長の東俊夫氏は指摘する。

 素通りされる日本の港湾―。

 この背景には、水先料などの港湾料金が諸外国に比べて高いことなども原因だが、1950年制定の港湾法で、港湾の整備・管理の権限を地方へ移譲したため、中小の港湾が全国に点在し、60年代からの世界的なコンテナ化に対応した港湾整備を国主導で進められなかったことも見逃せない。


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