そもそも特別用途指定は、第一次地方分権改革で地方分権が先に進められた分野。98年に11種類に定められていた指定枠が外されたほか、その後も関連法で規制緩和が進んだ。確かに、特別用途地区指定には、「県や議会の同意が必要で、手続き上時間がかかり出店阻止は難しかった」という市の主張もわからなくはないが、以前からパチンコ店を規制するという街づくりを進めているのだから、分権改革で手に入れた手段を最大限駆使すべきだったという謗りは免れない。
地方分権が進むほど、与えられた権限を立法化し、的確かつ迅速に行使する必要がある。宝塚市の例からは、せっかく権限を与えられても、持ち腐れにしてしまう地方の実情が見えてくる。
地方議会は 信頼できるか
権限を行使していないのは、行政だけではない。地方議会も同様である。 議員には立法権が付与されているが、『議会改革白書2009年版』(生活社)によると、07年、地方議会において議員による政策的な条例案が提出されたのはたった7.3%。地方分権が進むと、地域における条例制定の機会が増えるが、多くの地方議員が立法能力を持ち合わせていないことや、そもそも議会でどのような審議が行われているのかを知る住民は多くない。
議会や議員の活動をチェックする市民団体が各地で立ち上がっている。その先駆けとなったのが、99年に設立された「相模原市議会をよくする会」(代表・赤倉昭男氏)。市民75名が本会議や5つの常任委員会を交代で傍聴する。「設立当初、市が発行する『議会だより』では、質問者の会派や名前、各会派の議案への賛否すら判らなかった」(赤倉氏)ため、傍聴記「ザ・ギャラリー」を発行し、議会活動の透明性を高めてきた。
簡単ではない 地方議会の監視
典型的な傍聴記を一つ紹介しよう。政令市移行の是非を問う住民投票条例案が市民から直接請求され、それを巡る討論の内容が掲載されている。反対派A議員は、条例文上の「市民」「住民」といった表現の混在や、投票日などの規定の不備を指摘するだけで、修正は取り合わない。「議員は法律のプロでないから、修正していいと言われても困る」というおかしな発言が意識の低さを窺わせる。
よくする会では、こうした議員の議会での発言や態度など情報を蓄積し、選挙の前になると議員の「通信簿」を作成している。任期中の質問や公約への言及回数などから、「秀」~「落第」の6段階で意欲を評価し、発言内容などから「調査・説得力」や「行政チェック度」といった議員の資質を4段階で評価する。3年半の任期中、議会での質問ゼロや公約言及ゼロの「不可」「落第」議員が1割を超える。発行当初は議員から抵抗もあったが、市民には重宝されているようだ。
ただ、赤倉氏は、「会員は60~70歳代の退職者や主婦が中心で、今の議会の仕組みでは、現役世代がチェックするのは時間的に難しい」と、市民活動の限界も指摘する。国政と違い、地方議会ではメディアの監視も不十分で、分権で重みが増す地方議会へのチェックをどう充実するかは重要な課題だ。
国会議員は、憲法で権力行使の内容や発言内容に関して罰せられないと規定され、リコール(国民からの解職請求)も受けない。しかし地方は「条例は市民も出せるし、議会や首長に対して住民はリコールもできる。だから、地方議会は住民参加を当然と考えなければならないが、議員にその意識は低い」(前出の福嶋浩彦・前我孫子市長)。