2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月19日

 ここ数年米韓、また中韓の間で問題になってきたTHAAD配備がようやく決着したことは歓迎すべきことです。7月8日の決定により、THAAD一基が来年末までに慶尚北道星州(韓国中央部の大邱の西方。韓国空軍施設がある)に実戦配備されます。THAADは飛来するミサイルを、PAC3と比べてより早期にかつより高度で迎撃できます。韓国の報道によれば配備されるTHAADはレーダーと射撃統制装置(発電機含む)、発射台6台、インターセプター48発(発射台あたり8発。最大射程200キロ)で構成されているといいます。韓国政府はインターセプターの追加導入の可能性も示唆しています。

 北朝鮮、中国、ロシアは配備決定に強く反発しています。中国は当初からレーダーの探知距離(1000~2000キロと言われるので北京も入る)などに鑑み猛烈に反対してきました。ロシアも反対してきました。かかる状況に鑑み、配備決定の米国防総省声明は、これは北朝鮮の脅威に対処するものであり、「いかなる第三国に向けられるものでもない」と述べました。さらに配備地について韓国報道は「THAAD配備地域を慶尚北道星州に決めたのもTHAADレーダーの探知範囲が中国内陸に届かないよう配慮した側面が大きい」と述べています。他方、配備地が南に下がったためソウルがカバーされなくなったので、韓国はソウルに別途PAC3を配備すると言われています。

中国への傾斜を止めた朴槿恵

 ここ数年迷走してきた韓国の外交・安保政策の経緯はともかく、何とかここに至ったことは良いことです。あれほど中国に傾斜してきた(1年足らず前の対日抗戦勝利式典では習近平と共に天安門の壇上に立っていた)朴槿恵を突き動かした最大の要因は、過去1年の北朝鮮の相次ぐミサイル発射と北朝鮮のミサイル技術の進展です。厳しさを増す安保環境を背景に、安保派が外交派に勝ったともいえます。現に尹炳世外交部長官は最後まで反対したと報じられています。外交部は「事実と異なる」と否定しましたが、あながちありえないことではありません。

 来年末までの実戦配備に向けて着実に作業が進められることが期待されます。しかし、二つの問題があります。一つは韓国国内政治です。今や世論の半分はTHAAD展開に理解を示し、大手メディアも展開を支持する社説を書いています。しかし、住民の反対運動は激しくなる様相を示しています。野党や運動家なども攻勢を強めています。

 もう一つの問題は対中関係です。中韓関係は、今後双方で緊張に振れる可能性が高いでしょう。中国は必要な戦略上の措置を取ると警告しています。今韓国の人々が最も恐れるのは中国の報復措置です。2000年に韓国が中国産の冷凍ニンニクなどの関税率を引き上げたところ、中国は猛反発、韓国からの携帯電話やポリエチレンの輸入を中断する報復措置をとり、結局、韓国側が関税率を元に戻すことで問題を落着させざるを得ませんでした。

 韓国では中国の強硬な立場に不満が募っています。中韓関係のこれまでの蜜月はどこへ行ったのかと問う声があり、一方で政府の対中外交は何だったのかと政府批判の声もあります。韓国が送り込んだアジアインフラ投資銀行(AIIB)副総裁が国内での収賄疑惑のため休職にされるなど、対中関係は既にギスギスしてきています。
 

  
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