「過去の栄光にしがみつくのは時間の無駄」
「無職になったからには、とにかく仕事を探さないとね。とにかく、理由もなく毎日のように球場に行った」
高校を出てから18年、毎日野球場で仕事をしていた屋鋪にとって、そこで仕事を得ることは普通の考え方だった。決めたことをやりぬくことに関しては、18年間の実績とノウハウがある。野球教室、解説、コラムの執筆など、与えられた仕事は非常に丁寧にこなした。
その仕事ぶりが認められ、全国各地から野球教室の声がかかり、98~99年、04~05年にはジャイアンツのコーチも務めた。ジャイアンツを退団してからは、少年少女に野球を教える活動を本格化し、全国各地を飛び回った。
「これまでに600カ所以上で野球教室を実施して、そこには1回150人くらいは来る。それだけやれば、2回バットを振ったら、どうやって教えればいいか、だいたい分かる」
屋鋪の目が、ぐっと力強くなる。
「子供たちは、理解して上手くなる。つまり、子供が分かる言葉で伝えないと、理解してもらえない。どうやって伝えるかということを常に考え、そのことに関しては、経験も自信もある」
現在、月曜日から金曜日までは決まった場所での野球教室に足を運び、土日は全国各地へ赴く。出版した野球の技術書は全て自らが執筆するくらい、理論や練習法に関してはこだわりがある。そしてそのこだわりは、今では知る人ぞ知る屋鋪の別の一面を生み出した。
「全国を回ってる時に、小学生の時から好きだった日本国内の保存SLの写真を撮り始めたんだけど、よく考えたら全国の全車両の写真を撮った人って、いないよなって気づいた」
やると決めたらやりぬく男である。2006年から始まった保存SLの写真撮影は、日本国中の国鉄、私鉄、炭鉱、企業内の計601両を13年に全て撮り終えた。この写真集を自ら出版社に売り込み、出版が決定。
「野球を辞めて、過去の栄光に浸るのも、時間の無駄。与えられた仕事を全力でこなせば、次の仕事が見つかる」
盗塁、野球教室、SL。全てをつなぐものは、屋鋪の異常なまでのこだわりと、集中力。そして、何より強いのは、自分の価値観すら瞬時に手放すことができる旺盛な好奇心である。(敬称略)
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