ネット時代に入り、ジャーナルの形式も変化した。誰もが無料で読めるオープンアクセスシステムができ、さらに、紙媒体を離れて、最初からネットで公開されるジャーナル(ネット公開ジャーナル)ができた。
それとともに審査の基準も甘くなって、ついには掲載料稼ぎのため何でも載せる「捕食ジャーナル」まで現れた。落ちこぼれ、ねつ造などの問題論文をハイエナのように漁る、という意味で、「捕食」と呼ばれるという。
2011年には20以下だった「ハイエナ」出版社は、15年には693に増えたとある。「ネット社会を悪用したとしか思えない捕食ジャーナルは、研究不正の受け皿になり得る困った存在」というわけだ。
研究不正を未然に防ぐために
同様に、論文訂正や論文撤回の頻度も上昇している。論文撤回はこの50年来の現象であるが、とりわけ21世紀になって急増した。2001年から2010年までの10年間で、撤回論文は19倍も増えたという。
その背景には、研究不正に対する意識が高まったことと、研究者を監視するシステムができたことがある、と著者はみる。アメリカの研究公正局(ORI)、リトラクション・ウォッチのようなブログ、ソーシャル・メディアが目を光らせている。不正操作画像や盗用を検出するソフトも使われるようになった。
では、研究不正を未然に防ぐにはどうすればよいのか。
著者は、全研究者を対象とする研究倫理教育、公益通報者を守るしくみ、「ヒヤリ・ハット」の検討、風通しのよい研究室運営に加え、デジタルデータの共有化を提案する。
STAP細胞をはじめ、本書に紹介された不正事例では、実験ノートがおろそかにされていることが多い。病院の電子カルテシステムのように、関係者間で情報共有を図るのがよい、という著者の提案に賛成だ。
研究不正のみならず、社会におけるさまざまな不正――マンション杭打ちデータ改ざん、不正会計、免震ゴムのデータ改ざん、血液製剤・ワクチン製造不正、排気ガス測定ソフト改ざん、ドーピング――などにも多くの共通点を見出すことができる。
研究者ならずとも、組織のコンプライアンスに関心のある読者にとって、大いに示唆に富む一冊である。
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