「文系学部廃止」…昨年の夏、突如注目を集めた国公立大学の「文系学部廃止」報道。渦中の文系学部教授はこの問題で何を思ったのか。話題の『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社)を上梓した社会学、都市論、メディア論、カルチュラル・スタディーズなどを専門とする吉見俊哉東京大学大学院教授に話を聞いた。
ーー今回の本では、昨夏に突然メディアを騒がせた「文系学部廃止」報道に異を唱えています。まず、その報道の問題点や本の内容について教えてください。
吉見 今回の本では、前半で昨夏の「国立大文系学部廃止」報道についてのメディア学的な検討と文系擁護論に対する私の考え方を、後半で文系学部、さらに日本の大学は今後どうすれば良いのかについての長期的ビジョンを示しました。
昨年の夏、突然、文部科学省が「国公立大学の文系学部廃止」という通知を出したとメディアが報じ、世の中が炎上することになりました。これは昨年6月8日に文科省が「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」という通知を出し、その中で教員養成学部や人文社会系学部について組織の見直し、場合によっては廃止や社会的要請の強い分野への転換に取り組むように要請したことを受けてのものでした。
文系学部に厳しい通告ですが、文部科学省は決してこの時、初めてこうした通知を出したのではありません。少し調べればその約1年前、14年8月にもほぼ全く同じ通知が出ていることに気づくはずです。また、13年の「国立大学改革プラン」でもそれらに通じる論点は出ていました。
それどころか教員養成学部や大学院の廃止や転換は00年代初頭の国立大学法人化に際して政策として打ち出されていた。このように少し調べればわかることなのに、突然「文科省が文系学部廃止の通知を出した」と報じたジャーナリズムの劣化が問題だと思いますね。
このようにメディアが報じた背景には、同時期に国会前で安倍政権の安保関連法案に対しデモが行なわれ、政府が強行採決をしたのに対し、メディア側が政権叩きの材料を探していたとも考えられます。また、この頃には文科省が管轄する新国立競技場のトラブルもありました。文科省自身からすれば、その前年にすでに同じ通知を出しているのに、突然、炎上したことにビックリしたと思います。
私自身はこの文科省の方針に問題がないとは思いません。しかし、メディアがこの問題を取り上げるのであれば、前年にも、13年にも同じ通知があり、そういった方向性は国立大学法人化の頃から一貫して続いていると報じた上で、批判すべきです。突然通知が出されたように報じるのは、誘導し過ぎだと思います。