――ここまでお話を聞いた政治的な環境が整ったことや、オバマへの手紙で広島訪問が現実味を帯びてきたようにも思いますが、アメリカ国内での反発はなかったのでしょうか?
三山:実際の反発よりも反発を警戒する空気の方が大きかったですね。ホワイトハウスはメディアを巧みに使い、謝罪しないことを国内向けに強調しました。
また、オバマ訪問に先立ち、ケリー国務長官が今年4月にG7外相会議のため、現役閣僚として初めて広島を訪問しています。その際に、抗議のプラカードなどが掲げられることを憂慮していたところ、「welcome」と書かれたプラカードが掲げられました。会議後、G7外相会議議長である岸田文雄外相だけが通常は記者会見をするのですが、ケリー国務長官も自ら記者会見を開き「すべての人間は広島の地を踏むべきだ。その人間の中にはオバマも含まれる」と語ったのです。そして帰国するなり、オバマ大統領に対し、広島を訪問しても問題はないと報告した。
――そしていよいよ広島訪問を発表するわけですね。
三山:最終的に広島訪問を決断したのはオバマ自身です。
ただ、決断に至る政治的な背景を整えたのは、ケネディ駐日大使、ケリー国務長官、岸田文雄外相の3人のKで、この3人は功労者と言えるでしょう。私たち広島テレビは「オバマへの手紙」を通じ被爆者市民の声や被爆米兵に関する森重昭さんの存在をホワイトハウスに繋いだだけのメッセンジャーです。
ホワイトハウスは広島訪問を発表すると、国務省はソウルと北京に特使を派遣し、被爆者だけでなく全ての戦争被害者に哀悼の意を表しに行くんだと伝えました。ここでもオバマの広島訪問が国際政治の視点から行われたことがわかります。
また、広島訪問の前日、伊勢志摩でオバマが原爆資料館を見るかどうかで、ホワイトハウスで副大統領に次ぐNo.3のポストにスーザン・ライス補佐官とケネディ大使が激論をかわしたようです。結局、オバマはケネディの案を採用し、原爆資料館を見学しました。ライス補佐官には、どちらかと言えば中国や韓国への配慮があったのかもしれません。
日本の一部には、今回お話したような事情を知らずに、安倍首相が直後に行われた参議院選挙のために、オバマの広島訪問を利用したと考えている向きもあるようですが、それはあまりにも表面的過ぎます。
――最後に読者にメッセージはありますか?
三山:本書には、オバマへの手紙特別編の他に「広島の原爆炸裂時間は本当は8時15分ではない」「原爆はパラシュートで落とされたか?」「広島の原爆爆発直後の写真がないのはなぜ?」「8月9日、長崎に原爆が投下されたのは第一目標の小倉が曇りだったから、というのは正しくない」など「ヒロシマ、ナガサキの7つの『?』」も掲載しています。また、「原爆を投下しなかったら日本本土の地上戦になり、日米双方で100万人の死者が出ていた」というアメリカ人の一部で信じられているストーリーは、実はアメリカメディアの批判をかわすため、元米陸軍長官が、原爆投下から一年半も経過した後に発表した“後付け神話”であることも事実として証明しています。こちらもインサイドストーリーと共に知識として知っていただければ幸いです。
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