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2016年11月10日

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町山智浩 (まちやま・ともひろ)

映画評論家、コラムニスト

1962年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業後、編集者として雑誌「映画秘宝」を創刊した後に渡米。週刊文春などに執筆。著書に「トランプはローリングストーンズでやってきた」(文藝春秋)、「さらば白人国家アメリカ」(講談社)等。

[著書]
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 しかし、今、見てみると、トランプは静かだ。独特の手のジェスチャーはこの頃から同じだが、決して声を荒らげず、ゆっくりと話す。「あなたは賢明な女性だ。だが、今回は売り上げが最下位になってしまった。ビジネスとは冷酷なものだ。君はクビだ。ありがとう。家に帰りたまえ」。

 言葉遣いも上品で、貴族的な冷酷さがある。もともとトランプはこういうキャラクターだった。

 1980年代、レーガノミクスによって証券と不動産のバブルが始まったが、それを象徴する人物は映画『ウォール街』の株取引人ゲッコー(マイケル・ダグラス)とトランプだった。70年代のニューヨークは荒れ果てた廃墟とポルノ・ショップ、ジャンキーと娼婦だらけの街だったが、トランプはそれを高級化していった。潰れたホテルを二束三文で買い取って高級ホテル、グランド・ハイアットとして再生した。ホームレスの村のようになっていたセントラルパークで放置されていたスケートリンクを完成させた。トランプ・タワーを建ててマンハッタンの金ぴかのイメージを蘇らせた。

 トランプはイタリア製のスーツを着ているようなビジネス・エリートたちの憧れだった。80年代後期のスーパーリッチな証券マンを描いた『アメリカン・サイコ』の主人公が崇拝するのはトランプだった。それがどうして、下品な言葉でプア・ホワイトを熱狂させるアジテーターに変わってしまったのか。

 87年、ジョージ・H・W・ブッシュが大統領選に出馬する際、トランプを副大統領に選ぶと噂され、政界への野望についてインタビューされている映像がある。トランプは柔らかな口調で優雅な微笑みを絶やさず「大統領選に挑戦することには興味ありますよ」と語っている。

ブキャナンの移民排斥の主張に示していた嫌悪感

 10年後、トランプは00年の大統領予備選に出馬した。共和党でも民主党でもなく、大富豪ロス・ペローが立ち上げた改革党からだった。だが途中で予備選を降りた。ライバルのパット・ブキャナンに勝てないと判断したからだ。保守系の政治評論家でニクソン大統領の演説ライターでもあったブキャナンは白人の人口減少を警告し、メキシコとの国境に壁を築き、不法移民を排斥せよと訴えた。

 「私は、トランプの政策を先取りしていたんだ」。現在のブキャナンは言っているが、99年当時、CNNのインタビューでトランプはブキャナンの移民排斥に嫌悪感を示している。

 「ブキャナンは極右を超えている。あれでは本選に勝てない」

 確かにそうだったが、ブキャナンは少なくとも改革党の中では勝った。トランプは何かを学んだはずだ。

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