日本がアメリカの原発運用をモデルにしたとしても、被爆経験や地震頻発による恐怖感、一般市民やメディアの原子力敬遠…といった日本独特の諸要素を解消していくことができなければ、今後着実な原子力推進は危ぶまれる。事実、いったん故障や事故で停止したプラントがなかなか再起動できないのは、地元を含む国民の原子力業界に対する不信が強いからだ。ある関係者は、「停止プラント再開のもっとも高いハードルは、“地元了解”」と言い切った。こうした社会認識と国や事業者へのプレッシャーが、“安全”のための合理性を妨げてきた理由であることは否めない。
7つのプラントのうち、6、7号機が再起動した。残りのプラントについても、安全確認作業が続いている。(提供:東京電力)
もともと日本も2003年までは順調に稼働率を上げていた。ピークの98年には80%を超えたが、低下のきっかけは2003年。東京電力が事故のデータを改ざんするという問題が発覚したため、事業者及び原発に対する世間や地元住民の不信が強まり、稼動停止。ここで一気に57.4%に落ち込んだ。その後、事業者は信頼回復に努め、稼働率は徐々に上がってきたが、折悪しく2007年に新潟県中越沖地震が起こり、柏崎刈羽原発が停止した。2000年代以降、こうした影響が長引き、全体の稼働率は低迷している。事業者の体質改善や地元とのコミュニケーションなど、信頼性回復を行いながら、原発運用を効率化していかなくては、今後原発をエネルギー供給の基幹として推進していくことは難しい。
にわかに高まる「稼働率向上」の声。エネルギー政策の将来を見据えたこの局面で「稼働率」という数字を追うことは重要である。だが実現のためには、安全保守管理技術を合理化し、稼働率を向上させるとともに、技術のポテンシャルを効率的かつ安全に社会化できるような仕組みづくりをしていくことが必要である。
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