Wedge REPORT

2010年4月7日

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 まだ各事業者から経産省に対して検査期間延長の申請はないが、判断基準が安定し、共有化されれば、物量・時間量ともに、検査範囲の改正が行われるはずだ。

 合理的な判断基準の蓄積が進めば、オンライン・メンテナンスも可能になる。通常、プラントにはほとんどの機器に非常用を含めて2系統以上の機器が用意されており、アメリカでオンライン・メンテナンスが可能なのは、非常用の系統を使いながら定期検査を行うためである。機器が全体で機能の100%を割ることさえなければ、オンライン・メンテナンスを可とする判断だ。日本でもオンライン・メンテナンスを取り入れる動きはあり、「機器特性に応じ、検査の対象範囲を変更する検討段階に入っている」(資源エネルギー庁原子力政策課)という。以後、着実な推進が見られるものと思われる。

 運転技術の情報共有については、もう始まっている。日本の原発プラントのほとんどは、9つある電力会社が事業主である。たとえば、柏崎刈羽原子力発電所や福島第一原子力発電所は東京電力、女川原子力発電所は東北電力、泊発電所は北海道電力…というふうに、各プラントを持つのは各電力会社。とすれば、当然、運転技術や事故・故障情報の共有がしにくかった。

 現在は、軽水炉のB型とP型それぞれのオーナーズグループに各事業者が運転技術情報等を提供し(一般非公開)、日本原子力技術協会が集約・整理をして一般公開している。アメリカで原子力運転協会が運転技術情報等の情報を集約し、共有化していることを受けたものである。

 また、1基あたりの電力出力向上も、原発全体の出力容量を上げる施策。たとえば、定格出力110万kWのプラントが5%出力を高めたとする。そう したプラントが20基あれば、新増設に値する出力が得られることになる。実際アメリカでは、104プラントのうち、91プラントが出力向上を実施し、欧州 でも8カ国で認可実績を持つ。日本では、東海第二発電所が具体的計画を検討中である。

「原子力安全」の定義を明確にし、
稼働率向上を目指すべき

 遅々としながらも、稼働率低迷を機にようやく具体的な運用方法変更へと動きだした原発業界。だがその取り組みは緒に就いたばかりだ。「検討段階」 「準備中」の要素も多く、通常運用での実績は少ない。

 そもそも、これまでアメリカのように合理的な運用に至らなかったのは、安全と安心を切り分けられないという日本独自の体質があったからだ。結果、短い定期検査期間を設けていたり、検査機器数が多かった。肯定的に言えば、厳重に安全管理をしている。だが否定的に言えば、安全保全業務が合理的かどうかきちんと検証されないままできた。これは言い換えれば、原子力安全に対する根本的な考え方が明確でなく、厳正な機能評価やリスク評価、法制整備等々に改善の余地があるということだ。

 原子力安全検査の現場に長く関わり、現在は原子力安全法制研究を行う西脇由弘東京大学客員教授は、現況をこう評する。

 「日本の場合、原子炉安全を保守する法制は、“非常時に災害防止上の支障がないか”という考え方を基本に成立している。そもそも何が満たされれば災害が防止されるかという機能要求が明確ではない。本当の“原子力安全”が何なのかを突き詰めていくべきだ。だからこそ、現状では定期検査も予定調和的。たとえば検査は抜き打ちサンプリングを行うなど、意味のある検査を考えながら原子炉安全保全を目指していくことが必要だ」。

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