2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月29日

 北朝鮮の相次ぐ挑発を背景に、今、韓国で核武装論や原子力潜水艦建造論、核報復を含む対北先制攻撃論など激しい議論が沸き起こっていることは、この記事が述べる通りです。それは今の韓国の人々の安全保障上の不安感を示すものであり、我が国等も注視していかねばなりません。
しかし、これらの議論は、ここ数年の対中外交が残念ながらそうだったように、長年の真面目な検討に基づくというよりも一時的な、感情的な議論が多く、危うい政治的主張となっている場合もあると思われるので、注意を要します。大事なのは韓国の安全保障の強化に有益かどうかを冷静に考えた安保議論でしょう。過剰反応も良くありません。

韓国のナショナリズムは満足する

 原子力潜水艦の保有は、ナショナリズムを満足させることはあるでしょうが、韓国の対北安全を高めるために必要かつ費用対効果のある方策なのかどうかは分からないように思われます。周辺海域での対北均衡と抑止を考えるのであれば通常潜水艦の増強がベターかもしれませんし、米国との連携を考えれば他の関連分野での防衛努力がより効果的であるかもしれません。一部のメディアも提唱する核武装論についても未だ冷静な核戦略に基づいたものの様には思えません。記事が引用するウォン議員のレインコート論もおかしな議論のように思えます。核先制使用や核報復論に至っては極めて深刻な事項です。

 米韓原子力協定改定により再処理の道が開かれたというのは、今後米国との協議が条件となっていることもあり、言い過ぎではないでしょうか。米国は交渉で再処理を認めることには頑強に反対しました。なお、韓国の核保有の試みについては、70年代朴正熙大統領の指示で密かに核開発を進め、米国の圧力で中止したといわれています。また、82年にはプルトニウム抽出の実験を行っていたといわれています。2004年には、2000年にウラン濃縮実験をしていたことが発覚し、IAEAの査察を受けました。

 今重要なことは、米韓抑止戦略委員会(拡大抑止の協議機関)や共同訓練などを通じて抑止の信頼性を高めておくことです。また、中国、北朝鮮との関係で韓国の基本的立場を強固にしておくことではないでしょうか。米韓や日米韓などの対話を含めた協力関係を緊密化することこそなすべきことです。

 韓国の対北政策についても余り硬軟に振れることがないように基本を確固としておくことが重要でしょう。なお、朴大統領は10月1日の講演で「北韓(北朝鮮)住民が希望と人生を見つけられる道を切り開いておく。いつでも韓国の自由の地に来られることを望む」と北朝鮮市民に脱北を促す発言を行いました。韓国メディアは発言を批判しているようですが、ドイツ統一の例などを考えると、朴氏の発言は当然のことであり、もっと早く言うべきだったと思います。

  
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