この実情に、今年2月シリコンバレーの企業家らが声をあげた。「きちんと働き高収入を得ている人々は、市に居住する権利がある。彼らは教育を受け、熱心に働きその地位を得た。そうした人々が仕事の行き帰りごとにホームレスの苦しむ姿を目にしなくてはならないのは公正ではない」(Commando.io社CEOジャスティン・ケラー氏)。
この声明の裏にあるのは、「高収入のIT企業が家賃を釣り上げた結果、もともと市内で賃貸をしていた人々が家賃を払えなくなりホームレス化している」という批判だ。初任給でも年収10万ドル平均、というシリコンバレーの労働者たちは、こと住宅問題では批判の的となる。彼らの多くがサンフランシスコに居住、その通勤には有名なグーグル・バスなど、企業が「エアコン、WiFi完備で無料」の交通手段を用意している。怒れる市民がグーグルバスの前にバリケードを張って抗議活動を行ったのも記憶に新しい。
世帯収入を上回る一人当たりのホームレス支援資金
実際、市では地価高騰のためホームレスシェルターを閉鎖せざるを得ない事態も起きている。同市によると1人のホームレスをシェルター、食事、職業訓練などで支えるために市が支出する額は年間8万ドルにも及ぶという。これはサンフランシスコ市の平均世帯収入を上回る数字だ。
今回の大統領選挙とともに行われた住民投票でサンフランシスコ市は「路上テントの撤廃」を賛成多数で可決した。しかしホームレス保護団体からは「十分なシェルターがない状況でホームレスのテントを除去するのは人道に悖る行為」と批判の声が上がっている。
ホームレス対策は全米の大都市にとって頭の痛い問題だ。しかし予算と現実との兼ね合いがあり、解決策はない。さらに高騰するサンフランシスコの地価(同市の平均的な賃貸価格は1ベッドルームで2600ドルを超える)が問題をさらに複雑にしている。
筆者はユニオンスクエア近くのドラッグストアで商品価格をチェックしたが、ここではタバコ1箱が12ドルで売られていた。同じ銘柄でロサンゼルスでは6ドル前後だ。なぜこんなに高いのか、と聞くと「家賃が高いからそれくらい取らないと商売できない」という返答だった。他の商品も推して知るべし、だ。シリコンバレーの高所得者には問題ないのかもしれないが、サンフランシスコは庶民の住める場所ではなくなりつつあるのかもしれない。
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