任天堂はそこから、スマートフォン向けアプリの戦略を練り直した。真打である「スーパーマリオ」で打って出ることにしたのだ。
任天堂の財産は「キャラクター」だ。ポケモンGOがあそこまでヒットしたのは、ポケモンという「20年かけて世界中に浸透させたコンテンツ」を使い、キャラクターにぴったり合った内容のゲームを作ったからだ。同じ内容のものが、見も知らぬキャラクターで展開されてもあそこまで爆発的なヒットはしなかったし、ポケモンを使っていたとしても、ゲームの内容がポケモンファンを納得させられるものでなければ、長続きしなかっただろう。
ポケモンGOと同じくナイアンティックが開発した「Ingress」は、より高度なゲーム性を備え、ファンには絶大な支持を得ているものの、ポケモンGOのように爆発的なヒットには至っていない。誰にでも説明不要で理解してもらえるポケモンの威力は絶大だ。
実は筆者は、9月にiPhoneの発表会のために渡米した際、短時間だが、スーパーマリオランをプレイしている。その内容は「まぎれもなくマリオ」だった。
マリオといえば、十字キーでキャラクターを動かしてボタンでジャンプ、というのが定番の操作。だがスーパーマリオランには「ジャンプ」の操作しかない。片手で気軽に遊んでもらうためのものだ。
横に走り続けるキャラクターをジャンプさせ、障害物を避ける、という内容のゲームは「エンドレスラン」などと呼ばれ、スマホではありふれている。スーパーマリオランも、エンドレスランのキャラクターをマリオに変えただけ……と言えなくもない。まず飛びつくのは、マリオをよく知る、比較的年齢の高い層である可能性が高い。アプリをダウンロードし、ゲームの一部をプレイするだけなら無料、という、昨今のゲームアプリでは一般的なスタイルを採っているが、継続的な課金は不要で、1200円支払えばすべての内容が遊べる。「任天堂」という企業のパブリックイメージと顧客層に配慮したためか、世間で風当たりも強い「高額課金」に至らないような配慮が見られるが、一方で、一部のスマホゲームメーカーが得ているような、利益率・継続率ともに高いビジネス、というわけでもない。
だが、スーパーマリオランは、誰もが「ああ、マリオだ」と思う出来だ。キャラクターがマリオであるだけではない。ジャンプの軌道、音、敵キャラクター、障害物の構成に至るまで、任天堂が「マリオで大切にしてきたもの」をきちんと反映させているから、間違いなく「マリオ」なのだ。キャラクターだけを借りてきた平凡なゲームにはない輝きがある。ポケモンGOが「ポケモン」であるように、スーパーマリオランも「スーパーマリオ」だと受け入れられるだろう。