任天堂は、現在のビジネス戦略の軸に「キャラクター」を据えている。ディズニーがミッキーマウスを大事にするように、任天堂もマリオを大事にしている。初期にはずいぶん「色々なマリオ」がいたが、ここ10年ほどは、仕草や声、ジャンプの高さなど、様々な部分で「マリオらしさ」を守ろうとしている。明文化されてはいないが、任天堂社内にはそうしたものが蓄積されている。例えば、マリオは親指は立てても「ピース」はしない。どこにゲームを提供する場合でも、それがぶれない限り、マリオは任天堂のものである。
若年層に増加する任天堂を知らない世代
一方で、スマホにマリオを出すことは、「任天堂のキャラクターへの導き」でもある。任天堂の強みは、長年培ったキャラクターにある。だが、スマホが当たり前になると、「一度も任天堂のゲームとキャラクターに触れたことがない世代」も出てくる。任天堂が弱い海外市場では、今の状況があと数年続くと、そうなってもおかしくない。日本でも、携帯ゲーム機では強いが、「任天堂の据え置き型ゲーム機には馴染みがない層」は増えてきている。
彼らのビジネスを維持するには、「ゲームパッドを握って任天堂のゲームをする」体験が途切れてはならない。スマホでキャラクターを、新型機Switchでゲームパッドを広げていかねば、30年続いた「家庭用ゲーム」という市場の連続性が失われる。「ゲーム機」はソフトとハード、両方から収益を得られるため、成功した時にはより大きな果実を得られる。ビジネスの主導権も得られるので、スマホにアプリを出すより、ビジネス的な旨味は大きい。任天堂としては、30年間成功してきたこのモデルを続けたい。
また、今後キャラクタービジネスを軸に据えるとしても、若年層が「任天堂のキャラクターを知る」機会がなくてはうまくいかない。
そうした視点で考えると、任天堂のスマホへの取り組みは、必須である。「スーパーマリオラン」は、「マリオがスマホに初めて登場した」といった一言で片づけられるものでなく、任天堂の今後を占う上で、きわめて重要なゲームであることは間違いない。
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