2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年1月6日

 上記は、12月2日のトランプ・蔡英文の電話会談を、オバマ政権で取り残された課題を、今後米台間で話し合う良い機会を提供するものとして評価した論評です。論者のハモンド=チャンバースは、とくに米台間の経済問題に精通している米台経済協議会の会長です。

President of Taiwan

 トランプが公表した蔡英文との電話での会話の内容については、トランプが大統領就任後に言い方を変えるのではないかとの見方は強いです。例えば、蔡英文をPresident of Taiwanと呼んだ点は後日、修正されるかもしれません。他方、人民元安、高い関税という経済問題以外に米国の何十億ドルに上る武器売却の顧客としての台湾、中国が南シナ海に巨大な軍事施設を建設している状況等についてのツイッターでの言及については、今後どうなるかはわかりません。

 ハモンド=チャンバースによれば、オバマ政権は、中国との関係から、台湾との関係強化に及び腰で、南シナ海の「航行の自由作戦」も形式だけのもので、中国の怒りを買わないように努めてきたということです。その結果、今日、東シナ海、南シナ海、台湾海峡の状況は不安定化しました。

 台湾では、蔡英文の民進党政権が誕生して半年になりますが、中国は蔡英文が中国の言う「一つの中国の原則」を受け入れないことから、じわじわと蔡政権に対する圧力を強めつつあります。

 馬英九の国民党政権下で維持してきた対話のチャネルは事実上停止されたままです。中国人の台湾への大量の観光客は大幅に減少し、中国は国際機関などへの台湾のオブザーバー参加を妨害しています。中国でビジネスに従事する「台商」への締め付けは、トランプ・蔡英文の電話での会話以降、さらに強化されることが予想されます。

 中国は蔡英文とドナルド・トランプの電話での会話に対しいかなる対抗措置をとるでしょうか。中国としては、当面トランプの本音がどこにあるのかを見極めつつ、まずは米国を直接相手にせず、「小細工を弄した」蔡政権に「懲罰」を加えるという方向に向かいそうです。台湾(中華民国)承認国を中国承認国に切り換えさせるような行動を強めることも予想されます。
蔡英文が来年1月にニカラグアの大統領就任式に出席の途次、ニューヨークを通過する際、トランプまたはその側近と会うかどうかが注目されます。

 なお、台湾では、今回の蔡・トランプ電話会談について、これを快挙と見る者、中国からの圧力が今後さらに強まるとして批判的な者などに分かれており、一つの見方に収斂するのは早すぎるようです。ただし、今回の電話での会話が、米台間においては、1978年の米台断交以降の最も重大な進展であると受け止めている台湾人は多いです。

  
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