フィナンシャル・タイムズ紙の11月18日付社説が、プーチンとの悪い取引は取引が無いことよりも悪いとして、トランプによる対ロ関係改善の動きに自重を求めています。要旨、次の通り。
トランプがプーチンとの関係を構築したいと考えていることは明白である。ロシアの米国に対する挑戦は米にとって最も緊急の外交問題である。緊張緩和それ自体は賞賛すべき目的である。それができればトランプは政治的アウトサイダーからステイツマンになれる。
しかし同時にトランプにはロシアとの関係改善(グランド・バーゲン)には大きなリスクがあることを理解して貰わねばならない。
プーチンは米国を基軸とする今の世界政治秩序は不公平でロシアの国益を損なうものであるとして、それを崩したいと考えている。プーチンの野望を規制する国際的な制裁を緩和すれば、米ロ関係は一時的には改善するだろう。しかし、それは同時に米国など西側の長期的利益を損ない、世界の安全と安定を損なう。
プーチンは多国間協力の世界を大国間の勢力圏分割の世界に替えたいと考えている。そうなれば、元ソ連圏の殆どの地域でロシアはフリーハンドを持つことになる。トランプは、1945年のヤルタ体制を復活しようとする試みを拒否すべきだ。それはクリミアの併合とウクライナ東部への侵略を認めることになる。それは、危険な先例となり大国の行動を一層大胆にさせるだろう。またベルリンの壁崩壊後に構築され、1990年のパリ憲章に規定された原則(欧州諸国は自由に政策と同盟を選択することが認められる)を損なうことになる。
ウクライナを売ってはならない。そうすれば親西欧の政府は、ゆくゆく崩壊する。プーチンとの取引に当たってトランプは次の原則を守るべきだ。
第一に、米新政権は欧州と世界の安全保障の柱であるNATOを絶対的、無条件のものとして、それへのコミットメントを明確にすべきだ。同時にすべての欧州同盟国は最低防衛支出目標を達成すべく現在の努力を加速すべきだ。しかし新しい小国のNATO加盟国に対する米国の防衛コミットメントは引き続き無条件でなければならない。
第二に、トランプが選挙戦中に述べていたような対ロ制裁の撤回は欧州と日本との連帯を害するものであり、問題に進展が見られない限り行うべきではない。クリミアに対するロシアの主張は国際法の明白な違反であり、認めるべきでない。
西側がソ連によるバルト諸国占領を認めなかった時と同様に、これらの明確な線を尊重することは他の分野での新たなデタントを追求することを排除しない。トランプはすべての問題を同時にテーブルの上に出すべきではない。信頼醸成措置を通じ具体的な問題での段階的な前進を求めていくべきだ。アレッポ攻撃の再開はロシアの扱いの難しさを示すものとなっているが、シリアは新たな米ロ協力が必要とされる一つの分野である。
ロシアとの関係を考えるに当たって、トランプはロシアの権利と利益と同様に近隣諸国の権利と利益を重視すべきだ。1980年代の後最大の緊張状態にあるロシアとの関係を改善することは不適当だ。ロシアに屈服することによって関係改善を図ってはならない。プーチンとの悪い取引は、取引がないことよりも悪い。
出典:‘The dangers of striking a grand bargain with Putin’(Financial Times, November 18, 2016)
https://www.ft.com/content/6dd583cc-acd2-11e6-9cb3-bb8207902122