2024年11月23日(土)

足立倫行のプレミアムエッセイ

2016年12月29日

 次は余興のピニャータ。宗教的なポサダの間、別室でギターを抱えたり煙草を吸ったりと所在なさそうだった男性たち(特に若者)が、会場である中庭に続々と姿を現す。クリスマス行事の人気という点では、ピニャータの方が遥かに人気があるようだ。

 素焼きの甕に星や動物の形の紙飾りをつけたピニャータは、クリスマス・シーズンになると町中のいたる所で売っている。甕の中に菓子や果物を入れて、日本のスイカ割りの要領で棒で割って遊ぶのだ。

星型のピニャータ(iStock)

 ピニャータが多く星型をしているのは、マテオによる福音書にあるように、東方の三賢者がキリストの生まれた場所を探していると、以前見たことのある一つの星が先導し、幼な子のいる所の上に留まって示してくれたことから、その吉兆の星を表すとされる(おそらく甕の中のプレゼントは、東方の三賢者が宝箱から取り出して聖母子に献上した"黄金""乳香""没薬(もつやく)"の変化したものだ)。

 しかし、やがて目の前で繰り広げられた現実のピニャータは、うるわしい由緒とはまた別の、随分と荒々しいものだった。

 なるほど、棒を手にした目隠し姿の子供たちは、スイカ割りよろしく一人づつ順番にピニャータに挑み始める。

 だが星型の、あるいはクマやロバの形をしたピニャータは、中庭の木の枝や周囲の家々の屋根から伸ばしたロープで吊るされ、上や下、前や後に引き動かされる。しかも、甕には厚い紙が貼られているのでかなり固い。

 小さな子供がガムシャラに振り回す木の棒が当たったくらいではビクともしない(子供用のピニャータを別に用意する場合も)。

 そこで登場するのが、この時までずっと出番を待っていた若者たちである。

 彼らは目隠しもせず、周囲の人々が「もっと上」「もっと左」とロープ係に指示を与えるのを正確に聞き分け、ピニャータの中心に狙いを定め、力一杯に棒を振り回す。

 グシャーンという鈍い音。割れた甕の破片が飛び散ると同時に、中のキャンデーやチョコ、オレンジなどもあたりに飛び散る。

 男たちの振り回す棒や素焼きの陶器の破片も安全とは言い難いが、それより我先に殺到する人々の方だ。子供も大人も男も女も、早い者勝ち、力の強い者勝ちの「プレゼント争奪戦」である。コンクリートの上を這いずり回り、相手を押しのけ、引っ張り、少しでも多くと掻き集め……。

 そんな喧騒と騒乱が、クマ、ロバ、ピエロとピニャータが変わるたびに続くのだ。


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