2024年11月22日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年4月28日

 「私は製造業の企業経営をしているが、今でも普通に生産活動を行っている。しかしそれは別に利益を得るための生産でもなんでもない。むしろ生産すれば損することになっている。じゃ、どうして生産活動を普通に行っているのかと言えば、それは銀行に見せるためだ。ちゃんと生産をしているところを銀行に見せることによって、銀行から融資を引き出すのだ。引き出した融資はどう使うのかはこっちの自由だが、当然、全額不動産投資に使ってしまう。モノを作って売るなんかより、儲けは全然違うからだ」と。

調査で浮かび上がった中国経済の実態

 頼教授の調査で明らかになった以上のいくつかのケースから、現在の中国の経済状況の真相がよくわかったはずである。要するに、09年の世界同時不況以来、実体経済はずっと不振のままだから、元経営者も現役の経営者もそして一般の個人投資家も競って不動産投資に参入し、不動産バブルを膨らませてきたわけだが、不動産バブルの膨張は逆に実体の伴わない「経済繁栄」の虚像を作り上げて経済の成長を支える大きな要素となっている、ということである。

 そういう意味では、成長率8.7%となった09年の中国の「経済回復」も、成長率11.9%を記録した今年第一四半期の中国の「経済繁栄」も、結局は不動産バブル膨張の結果であったにすぎない。今の中国経済は徹頭徹尾、バブルによって支えられてバブルの上に成り立つ、正真正銘のバブル経済となっているのである。

政府が打ち出した不動産投資抑制策は奏功するか

 しかしバブルは所詮バブルであり、いずれ弾ける運命にある。実は今年の4月に入ってから、当の中国政府は不動産バブルの異常な膨張に危機感を募らせて、その抑制に動き始めているのである。日本と米国の不動産バブルの崩壊を目の当りにしてきた中国の指導者は、バフルがそのまま青天井に膨らんだ後の危険性はよく分かっているはずだから、今のうちに何とかしてその軟着陸を図ろうとしているのである。そのために、中国政府は4月15日から一連の不動産投資抑制策を打ち出したが、その決め手となるのは、3軒目以上の住宅購入に対し、住宅ローンの供給を停止するという措置である。

 明らかに不動産の投機を標的としたそれらの措置の実施が公表されると、その「効果」はすぐ現れた。抑制策公表以降の一週間、北京・上海・深圳各地では不動産の取引件数の激減が伝えられる一方、多くの投資者たちは「売り」に転じたことも報じられている。一部の専門家はまた、全国の不動産価格は今後30%以上下落するだろうと予測している。そして、中国の株式市場では不動産株を中心にして株価の急落が起きた。

 この原稿を書いている時点(4月28日)では、政府の抑制策はどれほどの効果があるのか、中国の不動産価格は一体どれほど下落していくのかはまだまだ不透明であるが、09年半ば以来、実体経済とはかけ離れて中国の「経済繁栄」を支えてきた不動産バブルの膨張はいよいよ、その終焉を迎えようとしていることが確実である。

 その時、今までは不動産バブルによって支えられてきた中国の高度成長が一体どうなるのか、それこそが、今後の注目すべき「見どころ」なのである。

※次回の更新は、5月6日(木)を予定しております。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜

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