2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2017年2月13日

 MLBでも、球団経営の舵取りを担うのはビジネスエリートたちだ。2005年、29歳の若さでデビルレイズ(現レイズ)球団社長に就任したマシュー・シルバーマンは、ハーバード大学卒、ゴールドマンサックスで不動産金融を手掛けた経歴をもつ。就任早々、シルバーマンはチームのリブランディングに着手。チームの名前、ロゴ、カラーなどを一新してイメージの再構築に取り組んだ。さらにチケットや駐車場、飲食などの料金を下げることで動員を増やし、増収を実現した。これはヤンキースなどのビッグチームとは正反対の手法だが、タンパというMLB球団の本拠地としては小さな街の特性を的確に把握したうえでの戦略だろう。

 また、予算規模が小さいなりに、マイナーリーグに投資を向け、大金を積んでスター選手を獲得するのではなく、育成による強化に舵を切った。レイズの1勝あたりのコスト(1996~2015)はMLB30球団中1位、つまり「最もお金をかけずに勝利を手にした」効率的な球団だとするデータもあるほどだ。

「ゴールドマンサックスにするかレアルにするか」

 実は欧米のエリートたちにとって、プロスポーツの世界はドリームジョブの一つとして認識されている。筆者がペンシルバニア大学ウォートン校にMBA留学をしていたころ、友人のスペイン人学生が「就職先をゴールドマンサックスにするか、マッキンゼーにするか、それともレアルにするか」と悩んでいた姿が印象に残っている。彼らにとってスポーツ界のトップ企業に入ることは、グローバルな金融機関やコンサルティングファームに入るのと同等のステータスがあるのだ。残念ながら日本ではそういう状況にない。

 まだまだ小さな動きだが、変化の萌芽はある。プロ野球では、企業再生の実績をもつ池田純氏が横浜DeNAベイスターズの球団社長として慢性的な赤字体質にメスを入れ、5年間にわたる改革のすえ黒字化を実現させた(池田氏は昨年10月に退任)。Jリーグでも、J3のグルージャ盛岡に東京海上日動からコンサルタントに転身した30代の宮野聡氏が経営陣に加わるなど経営改革に乗り出している。

 その道は決して平たんではないが、こうした動きが出てきたことは歓迎すべきだろう。優れたビジネス感覚をもつ経営者に投資することは、活躍するかどうか確証の無い助っ人選手を獲得することよりも、高い確度の再現性を期待できる。

 若くエネルギッシュな人材がクラブや球団を渡り歩いたり、業界の外からも有能な経営者が参入してきたりするような流動性が生まれれば、停滞を続ける日本のスポーツビジネスは新たなフェーズへと入ることができるだろう。

 Jリーグのクラブがレアルと本当の意味で五分に渡り合えるようになるには、まず経営力の強化から始めなければならない。

  
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