今年のソフトバンクの宮崎キャンプ、前半はすっかり〝松坂劇場〟と化していた。
昨年右肩の手術を受けた松坂大輔は、約10㎏減量したスリムな体型でキャンプイン。初日から捕手を座らせて59球のピッチングを披露すると、3日目には早くもフリー打撃の打撃投手を務めて161球。4日目にもブルペンで135球。その後、3日ほど休んだかと思ったら、7日目には今キャンプ最多の239球である。さらに、4日休んだ11日目にも185球を投げ、14日目にはより実戦に近いシート打撃に登板しているほど。
ちなみに、ほぼ同じ時期、同じ宮崎でキャンプを張る巨人のエース菅野智之はどのような調整をしていたか。今キャンプのブルペン入りは10日目までにようやく3度で、この時点での最多投球数は105球。初めてフリー打撃に登板したのは12日目だ。このペースでも、3月7日に開幕するWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に出場するため、例年より2週間ほど早く仕上げている。松坂がその菅野より9歳年上の36歳で、しかも昨年右肩を手術したばかりであることを考えれば、いかに脅威的なハイペースかがわかるだろう。いっそ超人的と言ってもいい。
そんな人が変わったような調整ぶりを見守っているチーム関係者は、「昨年の復活登板があまりにも無惨な結果に終わり、悔しくてならないんだろう」と、松坂の胸中を慮る。昨年10月2日、公式戦最終戦となった楽天戦に、日本では2006年10月7日以来約10年ぶりとなる一軍の公式戦にリリーフ登板、1イニングで3安打4四死球1暴投で5失点と、18年間のプロ生活でも最悪というほかない醜態をさらした。実は、この登板、工藤公康監督が再三止めたにもかかわらず、松坂本人が志願して実現したものだったという。
「日本に復帰してから2年間、一度も一軍のマウンドに上がれず、もう終わったと思われているのが歯がゆくてならなかったらしい。三軍投手コーチ兼リハビリ担当コーチの斉藤学さんを通して、何とか投げる機会を与えてください、と何度も工藤監督に直訴したそうです。ただ、工藤監督としては、優勝候補の本命とされながら日本ハムにペナントをさらわれたばかりで、来季に向けて若手や控えの力を試したかった時期。松坂の状態から言っても、復帰させるのはまだ早い。だから懸命に制止していたようなんですが……」
とは、先のチーム関係者の証言。それでも松坂の熱意にほだされ、1イニングだけならと投げさせた結果の大炎上だったのだ。