そして、日米韓などの域外国も集まるASEAN地域フォーラム(ARF)は、北朝鮮が参加している数少ない多国間対話の場でもある。リポートは「北朝鮮の主張がARF(での議論)に強い影響を及ぼすことはできなくても、北朝鮮はARFを自らの立場を表明する場として活用し続けてきた」と評価している。
北朝鮮にとってARFは、各国との外相会談を自然にセットできる場でもある。日本や米国、韓国との対話を進めようとする際には、ARF閣僚会議の場を利用して日米韓との個別外相会談を開いてきたのである。
制裁逃れの拠点として利用される東南アジア
そうした北朝鮮と東南アジアとの関係を問題視するのが、国連安全保障理事会の専門家パネル委員として対北朝鮮制裁の履行状況を監視してきた古川勝久氏である。古川氏は最近、ネットメディアに発表した記事「金正男暗殺で動いた、東南アジアに潜伏する工作員たちの日常」で「私が国連安保理で北朝鮮の国連制裁違反事件を捜査していた際にも、北朝鮮人が、東南アジアの現地企業の社員の肩書きを用いて、北朝鮮との関係を隠蔽しつつ、非合法活動を展開していた事例に度々遭遇した」と書いている。
私は昨年末、古川氏にインタビューした。古川氏はその時も、制裁逃れの拠点として東南アジアが利用されていると強調していた。日本の制裁強化によって日本で活動できなくなった貿易業者ら北朝鮮のエージェントが規制の緩い東南アジアに移って活動を続け、制裁を骨抜きにしているケースも目立つという。
しかもマレーシアを含む各国は古川氏らの捜査にも非協力的だった。金正男殺害事件で逮捕された北朝鮮国籍の男が勤務実態のないマレーシアの会社の従業員として労働許可を取得できていたことは、北朝鮮への対応が緩いことを実証するものだ。この会社の社長は、他にも10人の北朝鮮国籍者に同じようなことをしたと話している。この話が本当であれば、北朝鮮の工作員にとっては願ってもない環境であっただろう。
金正恩氏に「平和と正義、人道」の賞?
政治とは関係なく、文化・社会的な関係は良好に維持される方が良い。一般論としては当然の話だが、リポートが指摘する北朝鮮と東南アジアの関係には首をひねらされるものが少なくない。
その代表例が冒頭でも触れたスカルノ教育財団の賞であろう。インドネシアの初代大統領であるスカルノの名前を冠した財団で、理事長はスカルノ元大統領の次女、ラフマワティ氏だ。この財団が2015年、金正恩氏に「平和と正義、人道」の賞を贈っていた。ちなみにラフマワティ理事長と姉のメガワティ元大統領との関係は良くないという。