民法学者の渡辺洋三は、土地のもつ4つの特質として、人間の労働生産物ではないこと、絶対に動かすことのできない固定物であること、相互に関連をもって全体につながっていること、そして、人間の生活あるいは生産というあらゆる人間活動にとって絶対不可欠な基礎をなしているものを挙げ、これらの特質ゆえに土地とは本来的に公共的な性格をもつと結論づけている1。
いま、そうした個人の財産であると同時に公共的性格をあわせもつはずの土地について、その所有者の居所や生死が直ちにはわからないという問題が、様々な形で表面化してきている。
もっとも身近な例が空き家だろう。2015年5月に全面施行された空家対策特別措置法にもとづいて最初に強制撤去された長崎県新上五島町(2015年7月)および神奈川県横須賀市(同10月)の空き家は、いずれも行政のどの台帳からも所有者が特定できない「所有者不明」物件だった2。
一体なぜ、こうした問題が起きるのだろうか。
土地所有者の所在や生死の把握が難しくなる大きな要因に、相続未登記の問題がある。一般に、土地や家屋の所有者が死亡すると、新たな所有者となった相続人は相続登記を行い、不動産登記簿の名義を先代から自分へ書き換える手続きを行う。ただし、相続登記は義務ではない。名義変更の手続きを行うかどうか、また、いつ行うかは、相続人の判断にゆだねられている。
そのため、もし相続登記が行われなければ、不動産登記簿上の名義は死亡者のまま、実際には相続人の誰かがその土地を利用している、という状態になる。その後、時間の経過とともに世代交代が進めば、法定相続人はねずみ算式に増え、登記簿情報と実態との乖離(かいり)がさらに進んでいくことになる。
相続登記は任意のため、こうした状態自体は違法ではない。しかし、その土地に新たな利用計画が持ち上がったり、第三者が所有者に連絡をとる必要性が生じたときになって、これが支障となる。「登記がいいかげんで、持ち主がすぐには分からないために、その土地を使えない」という状態が発生するのだ。
全農地の2割が相続未登記のおそれ
国土交通省によると、全国4市町村から100地点ずつを選び、登記簿を調べた結果、最後に所有者に関する登記がされた年が50年以上前のものが全体の19.8%を占めた。30~49年前のものは26.3%に上っている。この結果について同省は、「所有者の所在の把握が難しい土地は、私有地の約2割が該当すると考えられ、相続登記が行われないと、今後も増加する見込み」と分析している3。
1:渡辺洋三(1973)『法社会学研究4 財産と法』、東京大学出版会
2:日本経済新聞「空き家解体 根拠は『税』」2015年11月30日、同「危険空き家28軒に勧告」同年12月6日。
3: 国土交通省 国土審議会 計画推進部会 国土管理専門委員会(第1回)「資料6_人口減少下の国土利用・管理の検討の方向性」15ページ。https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudo03_sg_000053.html