ロヒンギャ問題への対応をめぐっては、事件直前の数カ月の間、アウンサンスーチーと衝突した場面もあったとの情報もある。それでも、コーニーはNLDに影響力を持つ数少ないイスラム教徒の一人であり、貴重なブレーンであったことは間違いない。政権中枢部のブレーンが、多数の海外旅行客が行き交う国際空港で射殺されるという事件は、政権の安定度に疑問を突きつけた。
解決の糸口見えぬロヒンギャ問題
昨年10月9日。ヤカイン州で国境警備隊の詰め所が、武装グループに襲撃され、9人の警察官が亡くなった。ミャンマー国軍と国境警備隊は事件をロヒンギャの過激派によるテロとみなし、同州北部で過激派の「掃討作戦」を展開。国連などによると、7万人近くが隣国バングラデシュに逃れ、死者は1000人を超える恐れがある。
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の調査員が昨年末から今年1月にかけ、28人のロヒンギャに聞き取り調査をしたところ、国軍兵士らが少なくとも9つの村で集団レイプや違法な身体検査などの性的暴行をしていたことが明らかになった。こうした性的暴行は、国連難民高等弁務官事務所の報告書でも裏付けられている。
ミャンマー政府は、事実上国軍をコントロールできず、介入には消極的だ。マレーシアのナジブ首相が「アウンサンスーチーは何のためにノーベル平和賞を受賞したのか」と批判するなど、国際社会からは非難の声が相次いだ。ミャンマー政府は2月15日になってようやく掃討作戦の終結を宣言したものの、事態は解決したわけではない。
首都ネーピードーを拠点に活動する西側の援助関係者は言う。
「ミャンマーでは仏教ナショナリズムが高まり、過激派仏教徒の影響力が強まっています。アウンサンスーチー政権がロヒンギャに肩入れすることはできません。ロヒンギャ問題の解決は、ほぼ不可能です」
ミャンマーでは仏教徒が人口の大半を占めるが、キリスト教徒やイスラム教徒も少なくない。14年の国勢調査では、仏教徒が87・9%、キリスト教徒が6・2%、イスラム教徒が4・3%とされたが、ヤンゴンのイスラム教徒たちは「現在は、1割近くがムスリムだろう」と口をそろえる。