――少年たちが社会復帰を目前に抱く不安はどんな点でしょうか?
亀井:不良交友のかかわり方か、家族とうまくやっていけるかということに大きな不安を抱えている少年が多いです。
あとは仕事に就いてうまくやっていけるか、また、1年近く社会から離れているので、社会にうまく適応できるのだろうか?という不安も大きなものです。
少年たちに「健全な交友関係とはどんな関係だろう?」と意見を聞いたところ、正しいというイメージがわからない子がいました。そんなときに外部講師の方々のことをイメージさせて、「普段はどんな仕事をしていて、どんな人間関係の中で活動をしているのだろう」と考え、話し合いました。
たとえばタグラグビー交流マッチでは、大勢の大人たちが自分たちのためにタグラグビーという一つの繋がりで集まっていただき、スポーツを通して良い人間関係ができていることを理解させることができます。
また、ライフセービング講座は彼らの知らない世界を健全なかたちで伝えてくれます。何のためにその活動を行っているのか、どんな思いで命を救おうとしているのか直接聞くことによって少年たちは疑似体験します。講座を受けたあとで、「自分もやってみたい」と言う子たちが出てきます。
不良仲間とバイクで暴走行為をしたり、物を壊すことを楽しんでいた子が、ライフセービングで人を助けることに喜びを感じたり、タグラグビーでスポーツの楽しさを知って、世の中は広くて大きくて、楽しめることがたくさんあって、その中で健全な人間関係ができるんだと思わせることができます。
外部講師との関わりは社会と繋がる学びになっています。
――最後に中村教官に聞きます。被害者に対する思いをどのように深めていくのでしょうか?
中村:入院初期では、申し訳ないことをしてしまった、大変なことをしてしまったという言葉が返ってくるのですが、掘り下げていくと言葉に詰まってしまうんです。要するに自分のしてしまったことの深刻さを理解できていないんです。
しかし、院内で集団生活をしながら様々な観点から学んでいくうちに、窃盗の場合であれば金銭的な損失だけでなく、もしかしたら、自分の窃盗によってそのお店が閉店に追い込まれてしまったかもしれません。そうしたら、その家族はどうなってしまったのか、どんな不幸になってしまったのか、など時間をかけて対話を重ねながら理解できるようになってきます。
なぜ、悪いのか、その行為によって、どんな悪い影響を与えてしまったのか、それを突っ込んで考えさせて、どれだけ自分の行いが他人の人生を不幸にしてしまったのかを考えさせるんです。そして理解させるんです。最初は表面的な考え方しかできないかもしれませんが、そこを理解させてからでなければ社会には出せないと思っています。
中村教官、亀井次長、ご協力ありがとうございました。
取材にあたり、水府学院の職員の皆さまには多大なるご協力をいただきました。深く感謝しております。
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