――機能不全の家庭ではコミュニケーション上の問題があったり、学力等に影響してくると思うのですが、院内ではどんな指導をされているのですか。
中村:言いたいことが言えないような子の中には、ただ伝え方がわからないという子もいるんです。そういう場合は、職員が「○○君が言いたいことは、こういうこと?」と聞き直してあげると、「そうです!そうです!」と返ってきます。
時間は掛かりますが、それを繰り返していくうちに、自分のコミュニケーションの取り方が悪くて信頼関係が築けなかったと気付きます。
また、コミュニケーションは言葉遣いだけではなく態度なども含めて指導しています。
「○○君のその態度は攻撃的だから相手は話しづらいよ」と指導すると「今までずっとこうだった」なんて返ってきますから、「そこを変えると先生はもっと話しやすくなるんだけどな」と言って、少しずつ変化を促しながら、ねばり強く対話を重ねていきます。
そうすると、いかに自分が攻撃的だったかに気付いて、それが原因でケンカになっていたことを理解していきます。原因が自分のどこにあったのかに気づき始めるんです。
「いまのはすごく怖い表現を使っているから、こう直したほうが柔らかくなる」とか「いまのは適切じゃないから、こう直した方が伝わりやすい」というアドバイスをして、その場で訂正するようにしています。
――成育歴を把握される過程で「ここがターニングポイントだ」とわかりやすい例はありますか。
中村:小学校や中学校、高校時代で不登校になってしまうことや、最初に悪いことに手を付け始めたあたりがターニングポイントです。
勉強が遅れたり、周囲の生徒と上手くやれないことを理由に学校に行かなくなってしまいます。そして、不良交友から声を掛けられ、悪友との関係が深まっていきます。少しずつ悪いことを学んでいき、最初は煙草、飲酒が始まりそこから少しずつ犯罪傾向が強くなり、気付けば無免許でバイクに乗っていたり、窃盗をするようになっていきます。
在院生では窃盗が一番多く4割を超えています。傷害が2~3割。詐欺は特殊詐欺がほとんどです。
――ここで水府学院の亀井裕之次長に、非行に走るターニングポイントについて補足を加えていただきます。
亀井:ターニングポイントを挙げるとすれば、環境の変化が一番大きいです。中学にあがったと同時に環境の変化についていけず、悪い方向に逸れていってしまうようなケースです。もちろん1年生に限らず、2年生、3年生でもありますが、高校生では1年生の夏休みの前後に退学するケースが多いです。
非行に走る少年たちに共通して言えることは、環境の変化に弱いということです。単純に学力面で落ちこぼれたからといって非行に走る子は多くはありません。学力と非行は直接の因果関係は小さいと思います。
確かにここに入ってくる子の中には学力が小学3~4年生レベルという子は多いです。しかし、その理由は複合的でいろいろな要素が絡んでいます。水府学院には中学を卒業して1年ちょっとしか経っていないのに、高卒認定試験に合格する子がいるくらいですから、学力が低いイコール能力が低いということではありません。
若いですから吸収するスピードが速く、勉強し始めると理解できるようになって面白くなってくるんです。面白いと思えば学力は格段に伸びます。学ぶ環境を整えてあげるだけで子どもたちの学力は伸びていきます。