中村豪男法務教官に聞く
――水府学院に勤務して5年になるとお聞きしていますが、なぜ法務教官になろうと思ったのですか?
中村:はじめは警察官になろうと思っていました。犯罪者を取り締まることによって、社会に貢献したいと思っていたのです。ですが、非行少年の更生を支援するという職があるのを知って考え方が変わりました。
元々人と関わるのが好きだったというのもありますが、社会に悪い影響を与えてきた少年が、社会に良い影響を与える人間になることによって、社会と少年の両方にプラスになると思ったからです。
――仕事に就いて最初に感じたことはどんなことでしたか。思い描いていたイメージと実際ではどうだったのでしょうか?
中村:この仕事に就くまでは刑務所に近いイメージでした。教官によっていつも厳しく行動を制限され、一日中がちがちに管理されている少年たちを思い浮かべていました。しかし、実際の少年院はまったく違っていて驚きました。
例をあげれば、体育では教官はいっしょに走って汗をかいています。いっしょにやることによって、一生懸命な姿を見せながら、物事に対する取組姿勢を率先して教えていました。
何事も一生懸命やることが大切であり、一生懸命だからこそ学べることがあると、教官たちが身体で示して伝えている姿を見たのです。子どもたちも、そうした教官に応えようとしていました。
教える側と教えられる側という単純な関係ではなく、自分で示して、学ばせて、伝えていく。それが大切なことなのだと感じました。
――非行には家庭環境が一番影響すると言われていますが、この5年間、実際に少年たちに接して感じることはどんなことでしょうか?
中村:少年犯罪の背景は複雑で、こういう家庭環境だから、子どもがこうなってしまった、なんていうパターンはなく、一人ひとりまったく異なる要素や背景を持っています。
両親が揃っていて経済的にも問題がなく、ごく普通の家庭環境なのに子どもだけが非行に走ってしまったというケースもあります。それは何らかのきっかけで不良仲間と知り合い、そこから抜けられなくなってしまったというものでした。
一方、家庭環境が崩壊しているケースも当然あります。その崩壊の段階もさまざまで、親の暴力やネグレクトによって施設に引き取られ、不良交友との接点が増え、非行を行ってしまう少年もいます。
少年と職員との信頼関係の築き方は個人差があります。最初の1カ月間くらいで自分の思ったことを話し始める子がいる一方で、出院ぎりぎりまで心を閉ざしている子がいます。この場合は、過去に親からひどい暴力を受けていたようなことが多く、大人への不信感を根強く持っているケースがあります。
過去にどんなことを受けてきたかによりますが、その子の成育環境は周囲の人間関係や大人との信頼関係が築きやすいか、築きづらいかに大きく関わってきます。
地域の関わりも少ないと考えています。
親や兄弟に犯罪歴があり家庭が崩壊している子がいたのですが、その家は隣近所との関わりがほとんどありませんでした。ご近所の人と会っても挨拶しないような生活でした。地域の中での孤立化です。
「子ども110番の家」(PTAや自治体などが主な活動主体となり、子どもが危険を感じたときや助けを求めたときに、子どもを保護して警察などに通報することに協力する家や施設)がありますが、子どもたちに挨拶や声掛けをするなど、ちょっとしたことでも変わってくる可能性があると思います。
誰にも相談できないのと相談できるかもしれない人がいるのではまったく違うはずです。地域になんらかの選択肢があることが大切だと思っています。