自然発生した「スタッフ」
人が集まるようになってもスタッフはいない。とうてい河内さんだけでは手が回らない。そんな中で自然発生的に「スタッフ」のような役回りを担う住民が生まれた。河内さんはそうした人たちに「地域ジン」という愛称を付けた。地域人と漢字ではなくカタカナにしたのは、ニックネームのような親しみやすさを感じてもらうためだ。
河内さんは大竹市の別の地区の生まれで、今も県境を挟んだ隣町に住む。玖波には地縁はなく、いわば「よそ者」だ。そんな河内さんの目からみると「玖波には素晴らしい宝があるのに、地域の人はまったくそれを感じていない」ことに気づいた。故郷のすばらしさに気づいてもらうにはどうすればよいか。
町の中心を貫く旧道沿いには「うだつ」を備えた宿場町の面影が残っている。うだつとは隣家に接した屋根部分に付けられた防火壁のことで、立派な旧家の証明でもある。そんな街並みに愛着を持ってもらおうと、その通りを「うだつストリート」と命名。古民家でカフェを開いて、蓄音機コンサートなども開いた。
また公民館で行ってきた学びのカフェも「地域ジン 學びのカフェ」と名前を変えた。「学の旧字を使うことで、古いモノに目を向け、心に眠っている故郷を掘り起こしてもらおうと考えた」と河内さんは振り返る。自宅に眠っている古写真を公民館に持ち寄ってもらい、パネルにして展示した。「ふるさとお宝写真館」である。歴史のある良い町をもう一度見直そうというムードづくりだ。
公民館の運営も地域ジンが自主的に手伝って、活動がスムーズに進むようになった。地元の住民が自ら活動の中心になって動く。河内さんが公民館に来た初めの頃には考えられなかった光景がいつの間にかできていた。「職員もひとりで、予算のおカネもない。すべて無かったから地域ジンの人たちが手伝ってくれた」。
2015年から「くばコレ」というイベントを始めた。体育館に舞台と花道を作ってファッションショーをやるのだ。ネーミングは「パリコレ(パリ・コレクション)」の向こうを張った。ただしファッションは真逆。パリコレが最先端のファッションだとすると、くばコレは最もレトロなファッションが良しとされる。住民を中心に誰でもエントリーが可能だ。
2回目の2016年は7月23日に開かれ、349人が参加した。男性自治会長が昔の振り袖姿で登場し、市長や教育長も着物姿で登場。昭和初期の学生袴姿や、サザエさん張りのママさんスタイルまで。家のタンスに眠っている思い出が詰まった洋服を着て壇に登る愉快なイベントになった。甲冑(かっちゅう)姿やゆるキャラも登場した。
実はこのくばコレ。来年以降続けるかどうかは決まっていないのだが、すでに来年の参加申し込みが相次いでいる。もう引っ込みがつかない状態になってしまったのだ。
「河内マジックじゃね」─。
地域ジンの中心的な役割を担っている伊藤信子さんは笑う。河内さんが公民館にやって来て、すっかり地域の雰囲気が変わったという。