ふるさとに親が残したわが家をどうしたものか。空き家になって久しいが、家族の思い出が刻まれた家だけに取り壊すのも惜しい─。故郷を離れて都会に住む、そんな思いを抱えている人は少なくないだろう。平成25年の調査時点で全国の空き家は820万戸。総住宅数は6063万戸なので、何と13.5%に達する。少子化の影響もあって、誰も住まなくなった壊すに壊せない古い民家が、全国にはたくさんあるのだ。
今は神奈川県伊勢原市に住む池上(いけのうえ)眞平さんもそんなひとり。岡山県の総社市に大正時代に曾祖父が移築した家がある。20年近く前に祖母が亡くなって空き家になっていた。池上さんも生まれたのはこの家だが、父親の転勤などで京都で育ち、自身の就職後は関東に住んだ。一時は身障者グループのNPOに貸したこともあったが、その後は荒れるに任せた状態になっていた。
池上家は旧総社町の初代町長も務めた家で、土塀に囲まれたその邸宅は巨石を配した庭に面した書院や居間を持つ伝統的な日本建築。家の裏には土蔵や茶室もあった。「壊すことも考えたのですが、相談したら解体費用だけで1000万円近くかかると言われ考え込みました」と池上さん。
そんなとき、ひとつの出会いがあった。建築家で美術作家でもある松本剛太郎さんを紹介されたのだ。
松本さんは2006年に建築士事務所を閉じた後、岡山県東部・和気町の古民家を自力で改修、アトリエにして絵画や彫刻に取り組んでいた。池上邸を見た松本さんは、大改装して、人が集まるアートハウスにしたらどうかという話を持ちかけたのだ。2014年のことだ。松本さんの右腕で、シルクスクリーンによる版画などを含む現代芸術家の伊永(これなが)和弘さんも協力することになった。