2024年12月7日(土)

地域再生のキーワード

2016年9月17日

 「奈良にうまいものなし」と言われる。だが、そんなことはないと立ち上がった奈良・春日大社の元権宮司。歴史に刻まれた「うまいもの」の復活が地域の新たな活力となる。

奈良県
2014年、奈良県への観光客数は3811万人。10年の4464万人から回復傾向にある。外国人観光客では、韓国、台湾、中国、米国、タイの順。

 「志賀直哉は『奈良にうまいものなし』とのたもうたけど、どうしてどうして、いろいろありますのや」

 古都・奈良の春日大社で権宮司を務めた岡本彰夫さんは、長年、古(いにしえ)の文物の復興に力を注いできた。神官として仕えた春日大社でも、神社に残る古文書類などを調べあげ、儀式を古来の姿に戻す努力を昨年退職するまで続けた。そんな大和・奈良の伝統を重んじる岡本さんが熱心に取り組んでいるのが、歴史に刻まれた「うまいもの」の復活なのだ。

 奈良県北中部・桜井市初瀬にある長谷寺は古来、霊験あらたかな観音霊場として貴人から庶民に至るまで多くの人の信仰を集めた。伊勢神宮へ続く伊勢街道沿いでもあり、門前町は多くの往来客で賑わった。その初瀬に近い黒崎村(現・桜井市黒崎)に「女夫饅頭(めおとまんじゅう)」という名物があったという。

女夫饅頭を復活させた岡本彰夫さん(右)、堀井清孝さん史子さん夫婦(左)

 古書の収集家でもある岡本さんは、嘉永6年(1853年)に刊行された『西国三十三所名所図会』に、この女夫饅頭を商う店の繁盛ぶりを描いた図があるのを見つけ、どんなものなのか、興味を抱き続けていたという。 

 「調べてみると200年以上の歴史があって、あの本居宣長も食べたと『菅笠日記』に書いている。由緒正しい饅頭だということが分かったんです」と岡本さんは振り返る。享保21年(1736年)に幕府の命で編纂された『大和志』に黒崎名物として饅頭が載せられているのが現在確認できる最古の記録だという。


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