2022年9月26日(月)

韓国の「読み方」

2017年4月4日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

 権威主義的な権力行使というのは「帝王的大統領の指示や言葉ひとつが、国家機関の人的構成(人事)や国家政策の決定において絶対的な影響力を発揮する」ということだ。安判事はさらに「大統領のリーダーシップによって程度の違いはあるものの、首相をはじめとする閣僚と青瓦台参謀は大統領の意思決定と指示に服従するだけであり、大統領の考えと違う意見を自由に開陳することは難しい。さらに、大統領権力の過度な集中は現行憲法でも清算されておらず、トップダウンの意思決定(を当然視する)文化と情に訴える縁故主義が結びついて大統領による恣意的な権力行使の問題をより深刻なものとしている」と指摘した。

 安判事の補充意見は、韓国政治を憂慮する評論のようである。韓国の大統領は国会への法案提出権と予算編成・提出権という米国の大統領にはない権限を与えられているのに、聴聞会の対象となるポストは米国より少ない。それに「わが国の地方自治体は、連邦国家である米国とは違って中央政府に従属しており、自立と責任が十分でない地方自治が行われているにすぎない」と嘆いているのだ。

大統領権力を抑制する制度改正も

 ただし、安判事も触れているように現行憲法は民主化の産物である。人権の尊重や国民の基本権保障とともに、独裁政権の出現を2度と許してはならないということが重視された。

 そのために取り入れられたのが、民主化運動における最大の要求だった大統領直接選挙の復活であり、大統領の任期を5年間の1期だけとする制限だった。大統領の国会解散権は廃止され、公的機関全般の活動を定期的にチェックする国会の国政監査権が復活した。憲法裁判所も新設され、恣意的な政策に対するチェック機能は飛躍的に強化されたのである。

 大統領の権力を抑制しようとする制度改正は、その後も重ねられてきた。典型的なのは2000年に導入された人事聴聞会制度だろう。当初の対象は首相や大法院長(最高裁長官)、憲法裁判所長などだったが、その後、検事総長や国家情報院長、閣僚などに対象が拡大されていった。首相については国会の同意を得なければ任命できない。

 さらに、国会本会議に重要議案を上程するには原則として在職議員6割以上の同意を必要とする国会法改正が2012年に行われた。「国会先進化法」と呼ばれるこの法律によって、国会運営のハードルは格段に上がった。13年に発足した朴槿恵政権の与党は、議席の過半数を占めたことはあっても6割には遠かった。だから、与野党が鋭く対立する法案の審議は例外なく滞った。滞ったというのは、たいていの場合、成立の目処が立たなかったということである。野党の説得をしようともしなかった朴政権が内政で何も業績を残せなかった最大の理由だ。

 韓国の大統領には国会への予算提出権があることも強い権力の一つに挙げられるが、これも、最終的には政府原案通り可決される日本とは様相が違う。韓国の国会は政府が出した予算案を平気で組み替えるので、大詰めの協議ともなれば、与野党の議員がテーブルに資料を山積みにして顔を突き合わせる場面がニュースで流れる。この点では、日本の首相の方がより強い力を持っているといえるだろう。

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