2022年10月7日(金)

韓国の「読み方」

2017年4月4日

»著者プロフィール
著者
閉じる

澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

結局は「属人的」な政治文化の問題

 韓国大統領の権力を分かりやすく示してくれたのが、李明博、朴槿恵両政権での対北朝鮮制裁の発動だろう。李明博政権は10年に韓国軍哨戒艦沈没事件で大規模な制裁を発動し、朴槿恵政権は16年に核実験などへの対応策として開城工業団地の操業全面中断(事実上の閉鎖)を決めた。この時、韓国政府内で法的根拠を整備しようという動きは見られなかった。どちらも大統領の「鶴の一声」で実施に移されたのである。16年の場合、朴政権と歩調を合わせて独自制裁を発表した日本が、閣議決定などの法的手続きを踏むため即日実施とならないこととは好対照であった。

 前述した大統領の権力を抑制しようとする法整備とは矛盾を感じさせるものだ。1970年代から韓国社会を研究してきた文化人類学者の伊藤亜人東京大名誉教授は、大統領への権力集中の背景として「制度や規則よりも個人的関係が優先される属人主義」を挙げる。小此木政夫慶応大名誉教授も、属人的な政治文化が韓国の特徴だと指摘する。政治指導者は新しい派閥を作り、派閥の長が決めたことには無条件で従う文化だ。韓国の政界では政党の離合集散や党名変更が頻繁に繰り返されているが、これも属人的な政治文化の表れだという。制度を変えただけで権力集中がなくなるわけではない、ということだろう。

 憲法裁決定文での安判事の補充意見には次のような一節がある。

 「わが国では選挙で1票でも多く得れば帝王的政治権力を獲得し、そうできなければ権力から疎外される独り勝ちの多数代表制を採択している。その結果、韓国社会の重要な価値と資源は政治権力を中心に編成され、政界はその権力獲得のために極端な対立と闘争によって引き裂かれている。政治勢力間の泥仕合は理念対立と地域主義をあおり、社会的な葛藤を誘発もする。そのため、国家機関の人的構成や国家政策の決定が透明なプロセスを通じて公正で客観的に行われるのではなく、大統領の私的・党派的利益によって恣意的に行われるようになっている。」

 制度にも言及しているが、実質的には文化論だといえる。米国の朝鮮研究者であるグレゴリー・ヘンダーソンが60年代に出した名著『朝鮮の政治社会』(邦訳はサイマル出版会、1971年)の影響をうかがえる文章だ。ヘンダーソンは、韓国政治の特徴として「社会のあらゆる活動的分子を、権力の中心へ吸い上げる一つの強力な渦巻にたとえられ」ると指摘している。人々は権力の方向だけを見て、その内側になんとか入り込もうとすると同時に、その力に振り回されながら吸い込まれていくと言えばイメージしやすいだろうか。

新着記事

»もっと見る