トルコの憲法改正問題
今回の事態を理解するためには、トルコでの憲法改正問題を理解する必要があります。エルドアン大統領は、かねてから、憲法を改正して大統領の行政権限を強化することを目指してきました。
今年1月21日、トルコ国会は18条からなる憲法改正案を承認しました。この案によると、議院内閣制を廃止し、大統領に、副大統領と閣僚の任命権と予算編成権、さらに国会の解散、非常事態宣言などの権限を与えています。
現行憲法の改正条項では、改正案は議会の5分の3の賛成(議会の定数は550であるから、330人以上の賛成)で承認されます。エルドアンの政党、公正発展党は317議席しかありませんが、右派野党の民族主義行動党(MHP)の一部が賛成に回り、承認されました。この改正案は4月16日国民投票にかけられ、過半数の賛成で成立します。そうなると、議会も大統領も5年ごとに選ばれることになります。エルドアンはうまく行けば2029年まで大統領に留まることができます。エルドアンは、国民投票での勝利を狙っています。ただ、エルドアンの独裁になるということで反対論も多いです。そのためエルドアンは、在外トルコ人の多い欧州に閣僚などを派遣し、支持拡大運動をしています。
欧州諸国はそもそも、エルドアンのやっている憲法改正は、民主主義に反することになりかねないと消極的である上、トルコの内政上の争いが欧州に持ち込まれることに否定的です。特にこのエルドアン支持集会は荒れることが多く、治安上の問題になっています。これがこの問題の背景です。
外国人といえども集会の自由はありますが、暴動的な状況になることに対してホスト国が適切な措置をとることは、国際法上許されます。ドイツ、オランダを人権侵害と非難するエルドアンに理があるとは必ずしも言えません。1970年代、日本国内でも朴大統領支持派と金大中支持者が衝突するなどの事例があり、対応に困ったことがあります。
エルドアンは憲法改正に大きな熱意を持っているので、欧州にかみついていることが彼の人気にもつながっています。この社説が言うように、ルッテ・オランダ首相のエスカレーションを控えるようにとのアドバイスに沿って行動することは考え難いです。
ただこの口論は、4月16日の投票で決着がつけば終わる問題であり、一過性の問題です。しかし、この憲法改正によるエルドアンの独裁的な権力の強化は、EUでは少し行き過ぎと見られ、米国、欧州諸国とトルコが共通の価値を持っているのかに疑問を投げかける人が欧米で増えることが予想されます。一過性の問題とも言い切れないところがあります。4月16日以降にトルコが西側との友好関係に戻ってくるように働きかけるしかありません。
なお、民主的手続きを、一見踏みながら独裁者になっていくのは、古くはワイマール共和国のヒトラー、最近ではロシアのプーチンの例があります。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。