2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月11日

 英フィナンシャル・タイムズ紙のコラムニスト、ディビッド・ガードナーが、3月8日付け同紙に、シリア紛争の勝利からは程遠いとの論説を寄せ、アサド、ロシアおよびイランが、シリアにおいて直面している困難を指摘しています。要旨、次の通り。

(iStock)

 昨年12月、アサドがアレッポの反乱軍の拠点を奪還したが、シリアの破壊が収まる兆候は限定的である。停戦は部分的に過ぎない。露、米、イラン、トルコ、クルド人民兵、イランの支援を受けたシーア派民兵など、様々な勢力が戦場にひしめき、時折、反ISISで団結している。アルカイダも依然としてアサド政権中枢部を攻撃し得る。反乱軍の主流派は自己防衛のために再編を進めている。しかし戦争からの出口についての対話は全く進んでいない。

 プーチンは、今こそ欧州にシリア再建の資金を出すように言う時期だとしている。厚かましい。ロシアは、トランプ政権がアサド打倒の考えを一切捨てたと見ている。さらに、欧州ではシリアからの移民・難民の増加に関する政治的パニックが最重要問題である。

 しかし、ロシアとイランはシリアで深刻なジレンマを抱えている。

 第1:アサド政権はシリアの35%を支配しているが、支配の程度には議論の余地がある。アサド政権は少数派政権のため、人手不足であり、ロシア、イラン、ヒズボラなどに依存してきた。地方の支配は、軍閥、民兵、私兵、やくざ者に下請けに出されている。多くのシリア人が困窮し安定は存在しない。

 第2:ロシアとイランには、アサドの「ミニ国家」がシリアの残りの土地を取り戻すのを助ける用意がどの程度あるのか。アサド政権には、シリア東部を取り戻し、守備隊を置く能力はほとんどない。シリア内戦は変幻自在で形が変わり続けている。

 第3:「役に立つシリア」の支配だけでは十分ではない。シリア東部を「役に立たない」砂漠と見ることは正しくない。アサド政権は、東部のエネルギー資源と作物を必要としている。
ロシアとイランは、シリア全体を取り戻すべく戦わざるを得ないだろうが、多くのカネと犠牲者を要するだろう。イランだけでも2013~14年に年間80億ドルを費やしたと言われている。ロシアとイランは、石油とガスに依存しており、両国とも国際制裁の対象となっている。

 確かに、ロシアはシリアにおいて、港湾施設や空軍基地の長期リースを得た。イランの革命防衛隊は、移動通信、リン酸塩採掘、港湾、発電の契約を確保した。

 しかし、シリア再建費用は少なくとも2500億ドル、最終的にはおそらくその倍はかかるであろう。基本的な安定と権力の分担についての合意が無ければ、各国が資金供与の列に加わることはないだろう。欧州と米国の「リアリズム」は、もっと現実を踏まえる必要がある。特に、移民の流れをシリアに押し返したいと熱望している欧州は、シリアにおける人口構成の変化は、アサド政権が望んでいるものであることを認識すべきである。アサド政権のパトロンにも、自分たちにも責任のある混乱につき、よく考えてみるべき時が来るだろう。

出典:David Gardner,‘Assad is a long way from victory in Syrian conflict’(Financial Times, March 8, 2017)
https://www.ft.com/content/608319f0-036c-11e7-ace0-1ce02ef0def9


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